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「俺は多分もう他の女は好きにならない。お前が最後だと思う、桐子。だから俺には怖いものなんかない。時間だってこの先幾らだってある。幾らでも待てる。焦る必要もないし。二十五だなんて、人生これからって奴とは違うから」
「普通に考えれば俺の方が時間たっぷりありますけど」
ちょっとむっとしたのか、さっきまでの遠慮がちな態度が嘘のように修介が強気に言い返した。
「そっちは結婚して子ども欲しいとか思えばそんなに時間ないでしょ。俺はまだそんなんは全然先でいいんだし。こっちこそいくらでも時間ありますよ。十年だって二十年だって桐子さんのこと待てる。全部桐子さんのしたいようにしてもらっていいんだ」
「…いや十年二十年はこっちだって困るよ…」
小さめの声で呟くが、彼らはあまり聞いてない気が。さっきまで割に礼儀正しく話していたのに一転、張り合うような顔つきで向き合っている。
やっぱりこんな話は無理なのかな。いざ顔合わせると、お互い何で…、って気持ちになるよね、そりゃ。
破談ってことになったら。…わたしは、どうしたらいいのかな。内心でこっそりため息をつく。結局両方ときっぱり別れる、ってのが一番すっぱり正しい方法だとはわかってるけど…。
「俺はあんたを振り落とせるよ、修介くん。多分ね」
おもむろに拝島くんが口を開いた。その自信ありげな声の調子に思わず顔を上げる。…何だろう。
胸がざわつく。彼、何を言おうとしてるんだろう…?
拝島くんがゆっくりと腕を組んだ。修介は目に強い光を浮かべて彼を見返している。
「俺は、桐子のことは隅々までわかる。全部知ってる。自信があるんだ。ずっと見てきたから」
半分はったりだろう、とは思うが。多分わたしが思ってたよりずっと、わたしのことを注意深く見ていてくれたんだろうってことはわかる。だから、完全に否定はできない。
「こいつのことは全部引き受けられる。何でもだ。他の男に惹きつけられて抵抗できないところも。それでいて俺と一緒にいたい、そばにいたいと願ってるところも。矛盾してる。でも、それがこいつなんだ。両方ないと駄目なんだ。頭ではそのこと、あんたも理解してると思う。…でも、目前にしたらどうかな。…それを受け容れられる?」
静かな口調に胸がざわざわする。目前に…、って。どういうこと?
拝島くんは修介からわたしに目線を移した。
「…こっちへおいで。…桐子」
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