第15章 引き続き、拝島くんとわたし

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それからは度々身体を重ねた。俺はそれに夢中になった。彼女を睡眠不足にしてはいけないと自分を戒めていたが、本音を言えば彼女が泊まりにくるたび毎回抱きたかった。それくらいその身体に溺れていた。 朝、我慢できなくて無理やり抱いたこともある。仕事に遅刻しかけた桐子は口を尖らせて、そういう時はもっと早く起こして下さいよ、と文句を言ったが、セックス自体を嫌とは言わなかった。 もっと一緒にいる時間が欲しくて、彼女が休みの水曜日に店休日を合わせた。何処へ連れていっていいかわからなかったのと、一日二人きりで過ごしたかったので俺の部屋で普通にゆっくり過ごしただけだったが、彼女は幸せそうに見えた。その後はそうやって休みを過ごすのが当たり前になった。 俺たちは恋人同士だ。 思いがけなく美しい繊細な生き物を手に入れて、俺はためらいつつもその存在を享受した。夢みたいで何処か信じられなかったけど、こんな日がいつまでも続くことをただ願うしかなかった。 そんな日々に一度、暗雲が立ち込めたことがあった。 彼女の様子が何だかおかしいな、とその少し前から気づいてはいたある休日のことだった。入浴後、二人で寄り添って寛いでいる時に、どういうわけか桐子が真砂の話を持ち出してきたのだ。 「真砂と最近、会った?」 何故そんなことを訊くのかはわからなかったが、俺はつい先日、奴が俺の店に顔を出した時のことを思い出していた。 その日はかなり客が多くて閉店が遅くなった。もう深夜二時近かったと思う。部屋で桐子が待っている。客が引けた店内にこんな時間に誰か入ってくる音が響き、俺は呻いた。もう片付けを始めてるのに。あまり遅くにベッドに入っていくと彼女の安眠を妨げてしまう。 「すみませんお客様、もう閉…」 言いかけてやめる。丁寧な言葉を使うほどの相手でもなかった。真砂だ。 「何だよお前、こんな時間に。もう俺帰りたいんだよ。何も作らないぞ」 「まぁた、部屋で桐子が待ってるからって焦っちゃって…。早く帰って一緒に寝たいんでしょお。いいね~ラブ真っ最中で盛り上がっちゃっててさ」 この憎たらしいにやにや顔。俺は憮然として片付けを続行した。桐子とどうなったのか、俺はこいつに報告したことはない。桐子もあまりそんなことをぺらぺら話す方ではないと思うのだが。それでも何となく成り行きはわかるんだろう。休日を二人で過ごしてることは承知してるはずだし。
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