第15章 引き続き、拝島くんとわたし

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真砂は勝手にカウンターのスツールに腰かけた。殆ど片付けの終わりかけた店内を見回す。 「何でもいいけど。何かないの?軽くでいいよ」 俺は冷蔵庫の奥から缶ビールを引き出して奴に手渡してやった。 「えー缶か。これじゃあコンビニと変わんないじゃん」 「全部片付けちゃったよ。散らからないもんったらそれしかないだろ。マジでコンビニ行けよ、お前。…今日仕事だったんだろ。もう終わったのか」 彼女はプシュ、と冷え過ぎの缶のプルトップに指をかけた。 「何かつまみないの?…あーあ、疲れたぁ。いや、シチュエーション・セックスの仕事だったんだけどさ。何か今ひとつ盛り上がらなくて。なんかさ、気が乗らないというか、腰が引けた男がひとり混じってたんだよね。そうするとちょっと場が冷めちゃうっていうか。ああいうのって冷静になっちゃうと駄目なんだよね。あ~、朝までやりまくるつもりでいたのにさ。物足りないったら」 憮然とした。それは俺への嫌味ですか。 「そう言うけどさ。やる気もないのにそんな場所に居合わせた人間の身にもなってみろよ。大方周囲に圧力かけられて無理強いされたんだろ。あんなのやりたくない奴からしたらただの拷問だから」 真砂はあはは、と楽しそうにのけぞって笑った。 「そうだった、ごめんごめん。拝島くんのことを言ってるんじゃないよ。大体あの時はここでそういうことするって事前に知らされてなかったんでしょ。そりゃ吃驚するよね」 俺は知らん顔で取り合わなかった。そのせいで俺がどんなに…、まぁ、いいけど。今はもう、全部回復したし。桐子のおかげで。 真砂はくっ、とビールを煽りつつ喋り続けた。 「そんなわけでさ、このまま帰るんじゃあまりにも…、お代わりが必要だなぁとおもって。ここに来たわけ」 「何言ってんだよお前。さっさと帰れよもう」 何考えてんだ。俺は絶対つきあわないし。桐子も渡さないぞ。当然3Pもなし。うちに来るな。 俺が本気で目を三角にしたのを見て、真砂は軽く焦ったように手を振った。 「違う違う、拝島くんじゃないよ。連絡してみたらちょうど仕事終わりそうだってんで。ここで待ち合わせしようってことになってさ。もう来ると思うんだけど」 「勝手に待ち合わせ場所にするなよ。いつもだったらもう閉店してる時間だぞ」 呆れつつ言う。閉まってたらどうするつもりだったんだ。適当だなぁ。
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