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あやかし会社 ─山の向こうへ届けて─
その日、あやかし会社は大変なことになっていました。
山の向こうにいる妖かしたちが出社していないからです。
「どの妖かしが来ていないのですか?」
ぼくは小さいおじさんにききました。
「野狐のシロちゃんは入社して間もないから知らないが、山向こうを管轄するのは油すまし、磯女、天火、ガラッパ、白坊主、不知火、アマビエじゃよ」
「そんなにですか……!?」
ぼくは不安になりました。だって、仲間の身が心配だったからです。
「山向こうで大地震があったからだ!」
カッパ課長が飛び込んできて叫びました。
「それで山向こうの妖かしたちが、現場の人間を救けようと悪戦苦闘しているみたいだ」
部署のみんなが驚きで声を失いました。
「……どうしましょうか?」
ぼくはオロオロしてききます。だって、山向こうのみんなが必死でがんばっているのになにもできないからです。
「シロちゃんや。こういう時こそ冷静に対処しないとな」
小さいおじさんが言いました。それでもその表情は、不安をかくせない様子でした。
「だからといって、こーして議論していてもはじまらないにゃ」
ネコマタさんが言います。
「山向こうで地震だって!?」
独立起業したはずのオニ元課長まで飛び込んできました。
「オニ元課長、どうしたんですか?」
「おお、シロ君。山向こうの妖かしには、わたしの部下もいたから心配で来てしまったよ」
「こういう時は、どうすればいいんですかね?」
ぼくはまた同じ質問をしてしまいました。
そのとき──
「おいらが山向こうへ物資を届ける!」
決然とした声がしました。
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