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『勉強の方は大丈夫なのか?』
電話の向こうで父親がアタシを気遣う声がする。
元気が出る。
………そこまで言えば嘘になるけど、父親の口から弟の死が説明されなかったので、電話しただけでも甲斐がある。
「学校に支障ない範囲で頑張ってるよ」
『授業には支障ないようにしなさい』
「うん。分かった。じゃあね」
『札幌、待ちなさい』
スピーカー状態にしていた携帯を切った。
「君の名前、本当に『札幌』って言うんだね。
電話してなんて言ってごめんね?」
「ううん。電話してって言われたのは初めてだけど。変な名前だよね」
アタシのスカートに手を突っ込んで、レースのクロップドストラップレスパンティに約束の三万円を挟み込んで、その男は『かはは』と笑った。
声を出して笑われるような名前を付けてくれた父親を恨めども、その名前のお陰で三万円のチップにあやかる日が来ようとは予想だにしなかった。
ましてや、迷彩柄のミニスカートにピンクのキャミソールを着て、ロングヘアのウイッグで女装するアタシに、同世代くらい………高校生くらいの男がチップを弾む日が来ようだなんて、上京する前のアタシなら考えもしなかった。
一人暮らしで女装趣味、ネットで相手を探して、男相手の売春に手を染める。
そんな人間なら、世界を探せばそれなりにいる。
問題なのは、相手の方だ。
男子高校生が、一晩十万円という法外な金額でこんな色物を買った上に、チップまで弾もうとしている。
こんなのは、普通、有り得ない。
ドア越しに十万円を見せて貰わなければ、アパートの自室にも通さなかっただろう。
警戒しなくてはならない。
でも、お金に困っているのもまた事実。
『実名を親に確認してくれたら、三万円のチップだよ』
『君を一目見て、僕は名前だけでも知りたいなって思っちゃってね、内緒にするからさ』
メールで自らを朝日と名乗ったこの男は、躊躇せず、財布から三万円を出してひらつかせた。
口外しないなんて保証はないけれども、名字は伏せて、名前だけの約束で、三万円。
二つ返事で飛びついた。
「何で札幌なの?」
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