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「父親がサッポロビールが好きだからって」
「何だそれ。かはは」
屈辱的な気分だったが、三万円のチップが営業スマイルを齎した。
「北海道の生まれかと思った」
「父親は北海道だけど………何か飲む?」
ベットから降りて、冷蔵庫を開ける。
馴染みのお客さんから貰ったボトルを差し出した。
朝日は学生服を脱ぎ捨てて、鞄から苺ミルクのパックを取り出した。
「要らない。飲み物は自分で買って来たから大丈夫」
「飲んだ事ないの? 下戸?」
からかい半分に言ったら、朝日は甘い匂いをさせながら否定した。
「フランスでしこたま飲まされた。
あっちではワインが水みたいなものだし、法律で合法だったし」
海外なんて、一度も行ったことがない。
「それなら、処分だと思って一緒に飲んでよ。
あんまり好きじゃないの」
「嫌だね。嫌なら飲まなきゃ良い。捨てちゃいな」
「あはは………勿体ないよ」
「札幌さ、そこまで男相手が嫌なら、仕事を変えれば?
アルコール飲料に変な薬を仕込んでまで、早く終わらせたいの?」
「は?」
焦った。
ボトルには最初から混ぜてあった。
勧める挙動にも違和感はなかった。
現にこれまで何十回とやってきた相手は、誰も気付かなかったのに。
「札幌。僕は真にガッカリしている」
朝日が苺ミルクのパックを飲み干し、握り潰す。
「一回十万円でこんな仕事をしている君に、当然のように客がつくなんて驚異的だとは思わないか?
美しさだけで生き残って来たにしては、凄い人だなあって、いつも掲示板を見ながら感心して来たのに、残念だ」
朝日は、毎回チェックしていたというのか?
あんな不毛な欲望に塗れた掲示板を?
「メールして、約束して、ここまで来て、金を出し、僕はこの知的好奇心を君が正当なる対価をもって満たしてくれるものと期待していたのにな」
責め立て、朝日が紙パックを投げ捨てた。
「この薄暗い部屋に焚かれた香炉は何を燻らせているんだ?」
香炉からは花の香りの煙が上がる。
「チベットのお香………良い香りでしょ?」
「臭い」
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