学生王子に翻弄されて

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「昨日顔面蒼白で帰ったから心配したんだけど。急にカラオケ飛び出して帰ったし」 「彼女、大丈夫だった?」 私が自分勝手に電話を切ったから睦月くんは友達との時間を割いてくれたんだ。 友達と一緒に居たかっただろうに……。 悪い事をしたと反省していると、彼女達は私を見た。 「この人誰?」 「今日遊びに誘ったのに予定あるって言ってたよね?もしかして、睦月の友達?」 「いや、紗綾は……」 「あ、わかった!睦月のお姉さんだ!」 男の子の一人がそう言うと周りの人も納得する。 お姉さん……。 確かに睦月くんには3つ年の離れたお姉さんがいる。 とても美人で、でも私にとても優しくしてくれた。 そっか……。 私は『恋人』には見えないのか……。 「え?噂の彼女じゃないの?」 「そんなわけないじゃん。だって睦月くん、いつも言ってるじゃん。『彼女超可愛いから絶対に紹介しない』って。てか、お姉さんでもないでしょ。似てなさすぎ」 「友達?にしては地味すぎない?」 ほらね。 私は睦月くんとは不釣り合いなの。 これ以上睦月くんを馬鹿にされたくない。 私のせいで、睦月くんの趣味を疑われたくない。 スクールカースト上位の人達のテンションは苦手だった。 こうして悪意なく人を傷つけていく。 思った事を口にして、私みたいな底辺を馬鹿にしていく。 睦月くんが私を馬鹿にしてない事も、私を好きでいてくれていることも、全部分かってるよ。 それでも思ってしまう。 『遊び感覚で付き合ってくれてるんだろうな』 『友達に馬鹿にされたくないだろうな』 自分勝手な思い込み。 それで勝手に傷ついて、落ち込んで。 『彼の世界を元に戻さないと』 彼女達のように可愛くてオシャレで誰に自慢しても納得してもらえるような人を彼女にして幸せになってもらうために。 ここで、彼女が私だと気づかれてはいけない。 私は手を離して睦月くんに笑いかけた。 「ありがとうございました」 「え?」 「ここまでくればもう大丈夫です。この年で迷子になるとか本当に自分が情けないですよね。お友達もいることですし、私はここからでも帰れます。道案内、本当にありがとうございました」 私の言葉に固まる睦月くん。 「なんで……」 「なんだー。道案内してただけか」 「お姉さん、もう迷子にならないでねー」 睦月くんを取り囲む人達。 別世界の人達。 大丈夫、今回は泣かなかった。 胸のあたりがギュッと掴まれたようで痛くて。 ショッピングモールを出た瞬間に涙が出てきた。 氷が完全に解けたレモネードを握り締めてゆっくり歩き出す。 それからスマホを開いて睦月くんにメッセージを送る。 『さっきはごめんね。でも、こう言えば睦月くんの趣味が疑われる事も、馬鹿にされる事もないから。友達と遊んでください。私は帰ります』 それだけを送って涙を拭う。 大丈夫 大丈夫。 こんな痛みなんて慣れた。 ・
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