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駅に向かって歩いていると、後ろから腕を引かれて抱き締められる。
その反動で持っていたレモネードは床に落ちた。
中身が地面に零れている。
でも、それよりも気になるのは……。
「どうして……」
「それ、俺のセリフ」
私を追いかけてきて、それで肩で息をしている睦月くん。
彼の服を掴んだまま顔を上げる事は出来なかった。
「なんで一人で解決しようとするの?なんで俺の事頼ってくれないの?なんでいつも俺の友達が来たら他人のフリするの?」
「だ……て……」
「『馬鹿にされない』?俺は紗綾と付き合って後悔してないし、馬鹿にされる筋合いなんてない。馬鹿にしてきたら友達やめる。それだけじゃん」
「そ、そんなの……っ」
「無理じゃないから。紗綾と別れるか、友達やめるか、どっちか選べって言われたら迷わず紗綾を選ぶ。俺にとって紗綾と別れる選択肢なんてないから」
睦月くんが私の顔を両手で上げて涙を拭う。
「また、泣いた」
「……っ」
「俺から離れようとする時の紗綾、必ず敬語になって他人行儀になる。それが俺は凄く嫌で、同時に凄くムカつく」
「ご、め……っ」
「『彼女に何気を使わせてるんだ』『何言わせてるんだ』って。自分に凄く腹が立って。どうしたら紗綾を傷つけずに守れるか考えてるのに何も出来ない自分が無力で情けなくて。こうやって泣かせてしまうくらい、俺は紗綾を安心させてあげれてないんだなって」
睦月くんは私を離すと私の手を掴んで歩き出した。
「あ……レモネード…っ」
「そんなのこれからいくらでも買ってあげる」
「っ!!」
「今は俺に付き合って」
有無を言わさない睦月くん。
私は睦月くんの手を引っ張って動きを止めた。
「ち、違うの!!ゴミ、片付けないと!!」
そう言うと睦月くんは固まって、それから可笑しそうに笑った。
「な、なんで笑うの……っ」
「ごめん。まさかそっちだとは思わなくて」
「ゴミはちゃんと片付けないといけないんだよ?放置しちゃダメなんだから……」
私はレモネードの入っていたカップを手にして近くのゴミ箱に入れた。
その手を再び掴んで歩き出す睦月くん。
「あの……」
「今度は逃がさない」
「……っ」
「誰にも邪魔されない場所に行こう。紗綾に、俺がどれだけ紗綾の事好きなのか分かってもらわないと気が済まないから」
そう言って睦月くんが連れて来た場所は睦月くんの住んでいるマンション。
大学生になって一人暮らしを始めた睦月くん。
私の就職した場所と睦月くんの行っている大学が近くて、当然私達は住んでいる場所も近い。
久しぶりの睦月くんの部屋。
玄関で立ち尽くしていると腕を引かれて急な口付けをされた。
「ん……っ…眼鏡、邪魔」
そう言って私の眼鏡をキスをしながら外す睦月くん。
どんどん深くなるキスに立っていられなくなって。
腰が抜けそうになると睦月くんが支えてくれた。
「す、るの……?」
荒く息をしながら問うと、当然と言わんばかりに睦月くんが私を抱えた。
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