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あれから毎日のように睦月くんから連絡がくるようになった。
『もう我慢しない』
睦月くんはそう言って何度も私にキスをしてきた。
思い出すだけでも赤くなってしまう。
仕事中に彼氏の事を考えるなんて、公私混同しすぎ。
相変わらず睦月くんの日常は楽しそうで、毎日上げられるSNSの投稿を見て羨ましくなる。
私も友達がいたらこうやって楽しく毎日を過ごせるのだろうか。
いつも人の中心にいる睦月くん。
高校でもそうだった。
本当に、凄い人。
そう考えていると私の肩を誰かが叩いた。
振り返るとイケメンが私に笑っていた。
「相変わらず真面目だなー、園原」
「茂住くん?」
茂住徹平くんは私と同期の男の子。
私と同じで高校を卒業してからこの会社に入って来た。
お母さんが早くに病気で亡くなってしまったみたいで、お父さんを安心させるために就職したんだって言ってた。
私も母子家庭で育ったからその気持ちは分かる。
会社で私に気軽に話しかけてくれる優しい人だ。
「どうしたの?」
「この仕事、別に今すぐにやらなくてもいい仕事だろ?それなのにもう始めてるの?」
「やれることは早めにしておきたくて」
「俺なんていつもギリギリなのに、本当に偉いよなー」
「ギリギリでも失敗なく仕事出来てる茂住くんは凄いよ」
顔だけでなく性格までいい茂住くんは社内でも人気者だ。
上司にだって好かれている。
睦月くんとは違っていつもニコニコしている茂住くんは、睦月くんとはまた違った魅力のあるイケメンだ。
「やる気起きないと仕事出来ない人間なんで。園原みたいにキッチリ仕事してる人の方が周りからも評価いいって分かってるんだけどさ。仕事って本当に疲れる。学生に戻れるなら戻りたいわ」
その気持ちは分かる。
私も睦月くんの生活に憧れるときがあるから。
でも仕事をすると決めたのは自分。
嘆くのは違うって分かってる。
私は茂住くんに笑った。
「高卒で就職したの、私達だけだもんね。お互い愚痴とか言い合おう」
「そうだな。また俺の愚痴聞いてくれよ」
私の頭を軽くぽんと叩いて歩いて行く茂住くん。
その先で先輩に話しかけられていた。
本当に人気者だな。
茂住くんのおかげで沈みかけた気持ちが浮上した。
気合いを入れなおして仕事を再開する。
いつか睦月くんと一緒に住むときのために、お金かせいでおかないと。
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