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しばらく画面を見てから睦月くんはポケットに仕舞おうとした。
「ちょ、ちょっと待って!」
「何?」
「ライン来てたんでしょ?」
「きてた」
「じゃあ返事……」
「105通も返せない」
それだけ睦月くんを心配してるって事でしょう!?
睦月くんは不機嫌を顔で表すと私に抱き着いてきた。
「紗綾に酷い事言うような奴と一緒に居ても楽しくない」
「私はいいってば。約束を先にしてたのは友達なんだし、何も言わずに飛び出して来ちゃったのは睦月くんでしょ?私だって心配するよ」
「でも……」
「友達を優先してください」
そう言うと睦月くんは私の顔を見てからスマホを見た。
「……じゃあ、ちゃんと説明して友達が納得したら紗綾と居てもいいの?」
「え?」
「居てもいいの?」
もう一度聞かれて言葉に詰まる。
友達が心配してるから連絡しろと言ったのは私。
でも、先に友達と約束していたのに約束を破ってまで私と一緒にいる必要はどこにもない。
「友達が『いいよ』って言ったら……」
「分かった」
睦月くんは素早くスマホを操作すると電話をかけた。
電話?
ラインが105も来てるんだから当然か。
「もしもし、俺。勝手に居なくなってごめん。……ああ、ビックリさせた?……え?知り合いかって?んー……気になったから追いかけただけ。それでさ、悪いんだけど俺超大事な用事思い出したんだよね。……そう。大事な彼女との大事な約束」
睦月くん!?
私と睦月くんは何も約束なんてしてない。
どうしてそんな嘘……。
「分かった。明日はちゃんと顔出すよ。ごめん、ありがと」
睦月くんはそう言うと電話を切った。
「友達が許してくれた。これで文句ないでしょ?」
「そ、それは……。でも私と睦月くんは特別約束なんて……」
「したじゃん」
「え?」
「付き合った時にしたよ。『この先、紗綾が傷つくような事があったら俺がずっと傍に居る』って。少なくとも紗綾は傷ついたでしょ?」
どうして……そんな、約束……覚えて……。
「だから俺が側に居る。友達とは明日会うから、その時に埋め合わせしたらいい」
「睦月くん……」
「一人で宅飲みとか、させるわけないでしょ」
睦月くんはそう言うと私の手を握った。
この人は本当に……私を喜ばせるのが上手いな。
私は睦月くんに笑いかけて、買ってきたお酒をテーブルに並べた。
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