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「お友達、大丈夫?」
「本当にどうでもいい事だった」
酔った勢いで電話をかけてきたんだろう。
睦月くんの様子から本当にどうでもいい事だったんだと窺える。
「む、睦月くんは、人気者だね」
「え?いきなり何?」
「だって、酔った勢いだったとしても睦月くんに電話がかかってきた。友達は睦月くんの事が本当に大好きなんだろうなって思うから。高校の時も睦月くんの周りには沢山人がいたし、睦月くんは人を引き寄せる力があるんだね」
「そういえば……一人になれた事ないかも」
「一人になりたい時とかあるの?」
「そりゃね。周りの声が鬱陶しいって思う時はあるよ」
「じゃあ、私もあまり連絡しないほうがいいよね?」
「なんで?紗綾は特別。連絡こなかったら俺からするし。それにしてくれないと拗ねる」
睦月くんに指を弄ばれている。
ドキドキして顔が上げられない。
「今日の紗綾、なんか意地悪じゃない?俺の友達が嫌な事言ったから?」
「え?意地悪じゃ……」
「なんかヤダ。意地悪しないで」
睦月くんにキスをされながら床に押し倒される。
真っ赤になって驚くと睦月くんは私の上で微笑んだ。
次の日。
睦月くんは名残惜しそうに私の家を出て友達の家に向かった。
『今日も紗綾休みなのに、なんで俺は紗綾と一緒にいられないの?』
なんて可愛い事を言われたけど我慢して、約束していた友達の所へと送り出した。
友達だって睦月くんと遊びたい気持ちを我慢して、私に昨日は睦月くんを譲ってくれたんだから。
部屋の掃除でもしようかと思って掃除機を握る。
クローゼットを開けた瞬間、奥の方にある箱を見てしまった。
……早く処分しないとな。
掃除機を置いて箱を取り出す。
中を開けると教科書や手紙などが入ってる。
ボロボロになった教科書、誹謗中傷の手紙。
思い出したくない、高校生活……。
実家に置いたままだと親に見つかってしまう恐れがあって置いておけなかった。
こんなの見たらお母さんに余計な心配をかけちゃう。
引っ越してから処分しようと思ってたんだけど、毎日のように睦月くんが来てくれたりしたから捨てられなくてそのままになってたんだ。
私はため息をついた。
高校の時に睦月くんと仲良くしてから嫌がらせは始まった。
絶対に睦月くんは私なんて好きにならないよって思ってたんだけど、私を選んでくれた。
手紙を一枚手に取って中を開く。
『死ね』『学校に来るな』『お前に居場所なんてない』
そんな言葉で埋め尽くされているのを見ると今でも心が痛い。
友達なんて、一人も出来なかったな……。
一人になりたくてもなれなかった睦月くん、一人になるつもりがなかったのに一人になってしまう私。
誰が付き合うなんて予想できただろう。
私は手紙をもう一度箱の中に入れてクローゼットに仕舞った。
睦月くんに見つからないように捨てないと。
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