空に浮かぶ夜の花

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約束していた花火大会の日。 私は睦月くんと一緒に隣町へ来ていた。 本当は浴衣とか着たかったけど、なんだか恥ずかしくて普通の格好で来てしまった。 コンタクトはあれ以来していない。 可愛くなろうと決めたのは自分なんだけど、あの日に死んでしまうんじゃないかと思うくらい睦月くんから『可愛い』を連呼されてしまって恥ずかしくて出来ないのだ。 一応カバンの中に入れてはいるけど……。 睦月くんをチラッと見てから悩んでしまう。 商店街の方に来るとたくさんの出店が軒を連ねていた。 賑やかな声があたりを包んでいる。 彼氏と夏祭りなんて初めてかも。 何度か行きたいなと思ったことはあるけど、自分に自信がなかったり睦月くんに迷惑がかかるのかもしれないと思うと言えなかった。 「紗綾、お腹空いてない?何か食べたいものあったら言ってね」 「あ、うん」 食べたいものと言っても、何を食べれば睦月くんに変な顔をされないのか分からない。 女の子が食べそうなものって何? 私が今まで読んできた少女漫画を思い出して周りを見渡す。 その度に睦月くんがすれ違う女の子達に見られているのが分かる。 本人は日常茶飯事なのか全然気にしてないけど。 学校でもこうなのかな。 高校の時もそうだったし。 すれ違う女の子達から黄色い声をかけられていたし、ずっと騒がれてた。 私は陰から見てる事しか出来なかったけど。 「あれ?睦月じゃん」 知らない男の子が睦月くんに近づいてくる。 睦月くんは「ああ」と言った。 友達、かな? 「なんだよ睦月ー!今日俺らの誘い断ってたじゃん」 「サークルの奴らと来てんの?」 「そう!今日睦月来ないって聞いて女子のテンション激落ちしてたから、睦月やっぱり来てたって言ったら喜ぶと思うけど」 「いや、俺お前らと一緒に祭り回るために来たんじゃ……」 「あ、ほら。おーい、睦月来てるー!」 男の子は睦月くんの言葉を遮って歩いていた数人のグループに声をかけた。 この人たち、見覚えある。 スーパーで会った時に『おばさん』って言ってた子もいる……。 睦月くんの友達だ。 なんとなく俯いてしまう。 男の子は睦月くんの肩に腕を回した。 男の子も女の子も睦月くんを見て嬉しそうに声をかけている。 目の前で起きている事なのに、なんだか別世界のものを見ている気持ちになって寂しくなった。 私なんて彼らの眼中にない。 「それより、その地味な人誰?」 私を『おばさん』だと言った可愛い女の子が私を見てそう言う。 私はビクッとした。 どうしよう……。 冷や汗を流して何とか言い訳を考えていると睦月くんが私の手を掴んだ。 え……。 「言ったでしょ?『俺は彼女と一緒に花火大会行く』って」 ・
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