空に浮かぶ夜の花

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本当は別れたくない。 私だって一緒にいたい。 周りがそれを許してくれなくても、睦月くんは許してくれる? 私のせいで周りに何か言われても気にしないって言いきれる? ……きっと彼は言い切るんだろうな。 「睦月くん」 「ん?」 「ごめんなさい」 謝ると睦月くんは私の頭を撫でた。 「行こう。まだ何も楽しんでないでしょ」 睦月くんに手を引かれて歩き出す。 それから私はベルちゃん達を振り返った。 「あ…ベルちゃん。アイス、ありがとう。それからごめんなさい」 「いいよ、元気出たなら良かった。人ごみ嫌いだから私帰るね」 「久篠くんも、ありがとうございます。友達って言ってくれて嬉しかったです」 「俺も会えて嬉しいよ。またね、紗綾ちゃん」 手を振ってくれる二人に頭を下げて睦月くんと歩き出す。 賑やかな声がまた大きくなってくると睦月くんはりんご飴の屋台を指さした。 「りんご飴食べる?」 「りんご飴って?」 「あれ?食べた事ない?だったら食べてみる?甘くておいしいんだって」 その言い方は睦月くんも食べた事ないのでは……。 そう思ったけど、周りを見れば確かに女の子が食べているのが多い。 これが女子に人気の食べ物なのかな。 睦月くんはりんご飴を買ってくれると私に手渡した。 「睦月くんはいらないの?」 「俺はいい。紗綾が食べてるの見るだけで幸せだから」 その殺し文句は一体誰から教えられるのだろう。 私は赤くなって俯いた。 一口りんご飴を食べると甘くてとても美味しかった。 こういうもの知ってるって事は、今までの彼女さん達やお友達からお祭りにたくさん誘われて行っていたって事かな。 睦月くんの昔に嫉妬しても意味ないって分かってる。 睦月くんは私とは違った生き方をしていたって知ってるし。 今が幸せならどうだっていい。 変わりたいと願ったのは自分だ。 自信がないからって頑張る事を辞めて、それで周りに批判されて傷ついて。 本当に私って馬鹿だな。 睦月くんに心配させたくないのに。 心配ばかりかけてしまう自分がとても嫌い。 しばらくお祭りを楽しんで、私と睦月くんは花火が見える場所に移動した。 ベルちゃんが教えてくれた場所は本当に穴場で、この辺に住んでいる人しか知らない場所らしかった。 あれだけ人がいたのに、ここは数人しかいなくて静かだな。 落ち着く。 「紗綾」 不意に名前を呼ばれて睦月くんを見る。 睦月くんは手に持ったカップの飲み物を見ながら口を開いた。 「俺はどんな紗綾でも好きだから」 「え?」 「俺のために可愛くなろうと頑張ってくれた紗綾も、いつもの紗綾も俺にとっては大事な存在に変わりない。だから無理しなくていいから。俺と釣り合ってないなんて悲しい事、もう言うの禁止」 「睦月くん……」 「多分ベルあたりから聞いてると思うけど、俺って毎日のようにあいつらに紗綾の事自慢してるんだよね。ずっとのろけてたって言うか。でも、紗綾が俺と釣り合ってないとか、自分とは違うとか言う度に苦しくて悲しかった。そんな気持ちになるたびにベルがいつも『そんなんじゃアメリカ人にはなれんぞ』とか言ってくるわけ」 「アメリカ人?」 「別にならないのにさ。まぁ、あいつの母親アメリカの人だし。ハーフって考えてる事わかんないよね」 睦月くんは「ははっ」と笑うと空を見上げた。 ・
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