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突然何を言われたのか理解するのに時間がかかった。
茂住くんは困ったように笑いながら頭をかいた。
「自分で死のうとしてる時に、俺が無理やり彼女にしたんだよね」
「え!?」
「前から好きだったし、死んでほしくないし、頭の中めちゃくちゃになって、気づいたらキスして『今日から俺の彼女って事で』とか調子乗ったこと言ってて。それなのに彼女は『ありがとう』って言って笑ったんだ」
きっと、彼女さんは嬉しかったんだろう。
茂住くんは人を周りの人の言葉で判断したりしない。
ちゃんと人と向き合って、その人の本当の姿を見つけてくれる。
私も、嬉しかった。
睦月くんが私を好きだって言ってくれて。
見た目とか、そんなの全く関係ないって言ってくれて。
……私はまだ、睦月くんの言葉の全てを信じ切れていないんだな。
「あー、彼女の事話してたら会いたくなってきた。早く長期入らないかなー」
「たくさん会えるといいね」
「うん!」
嬉しそうに笑う茂住くんに私も笑いかける。
お店に着くと私と茂住くんも席に座った。
お店の奥から楽しそうな大声が聞こえてくる。
周りの人たちもお酒が入っているからか、大きな声で話している人が多かった。
「園原、何にする?」
茂住くんと一緒にメニューを見る。
そういえば、前に睦月くんから『俺の前以外でお酒飲んじゃダメ』って言われた記憶がある。
でも、流石に何も飲まないのも失礼だろう。
最初くらいは……。
「私、ビールがいい」
「園原って酒強いの?」
「別に強いわけじゃないんだけど、お酒は好きだよ」
「あはは、なんかわかる」
茂住くんは先輩に注文を聞いて店員さんを呼んだ。
明るい人はこういうの慣れてるな。
感心しながら周りを見ると、私は固まってしまった。
だって、あれって……。
「ん?どうしたの?園原」
注文を終えた茂住くんが私の視線の先を追う。
それから目を見開いた。
「あれって、さっき園原に見せてもらった……」
そう、あれは間違いなく睦月くんだ。
あんなイケメンが何人もいるわけない。
サークルの飲み会ってこのお店だったの!?
睦月くんはこっちに気づいてない。
周りの人の視線が鬱陶しいのかずっとスマホを触っている。
ああ、サークルの人達と仲良くって言ったのに……。
「なんか、園原の彼氏不機嫌?」
「あー……よく、知らない人にジロジロ見られるから……。そういうの、嫌いで……」
「あれだけ綺麗だと仕方ないような気もするけど……」
私は苦笑いをして息をついた。
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