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会社がようやく長期休暇に入った。
茂住くんは彼女に会えると言って嬉しそうにしていた。
本当に大好きなんだな。
私は睦月くんと一緒に実家に帰る事に。
お互い実家が近いので一緒に帰省するのはいいんだけど……。
「睦月くん、会わない間に更に男前になったんじゃない?」
お母さんは睦月くんの事が本当に好きで、ずっと睦月くんに絡んでいる。
私は頭を抱えた。
「お母さん、睦月くんが困ってるからやめて」
「あら、別に困らせてるわけじゃないわよ。事実を述べてるだけ」
お母さんは首を傾げた。
何がいけないのか分かっていないらしい。
天然って怖い。
「大丈夫だよ、紗綾。俺、紗綾のお母さんと一緒に話すの好きだし」
「あらー!本当に睦月くんはいい子ねー。こんなカッコよくていい子が紗綾の未来の旦那様になるなんて、お母さん本当に嬉しいわー」
「睦月くんに迷惑だけはかけないで……」
そう言ってため息をつくと睦月くんは笑った。
お母さんの会話にしばらく付き合ってから私の部屋に避難する。
睦月くんに対して申し訳ない気持ちでいると睦月くんが私の頬を撫でた。
「俺は大丈夫だよ。本当に俺は紗綾のお母さんと話すの好きだから。それに、俺の事家族として扱ってくれるから嬉しいし」
「でも、あのテンションだよ?疲れるでしょ?本当にごめんね」
「ううん、全然。ていうか、俺が一緒に紗綾の家に行きたいって言ったんだし。今日は紗綾の家に泊まれるって考えるだけで楽しみにしてた。久しぶりに紗綾のお母さんの手料理食べられるって」
「睦月くんのお母さんの作る料理の方が美味しいと思うけど……」
何せ料理教室の先生なんだし。
睦月くんの両親はとても優しくて、お父さんは大学の先生、お母さんは料理教室の先生をしている。
余裕のある感じがして緊張してしまうけど、私を娘のように扱ってくれるから好きだって思える。
「そんな事ないよ。紗綾のお母さんはずっと紗綾を一人で育ててきてて、紗綾の好きなもの全部知ってる、俺にとっては神様みたいな人だし」
「神様って……」
「家族の一員として扱ってくれる事、俺は本当に嬉しいよ」
睦月くんは私のお母さんも大事にしてくれる。
お母さんがずっと頑張ってくれていた事、全部分かって『凄い』って言ってくれる。
本当に素敵でいい人。
「そういえば紗綾、俺サークル辞めたから」
「え?」
「ほら、紗綾に嫌な事言ったり、俺と別れさそうとしたりしたから。別に特別仲がいい友達ってわけでもないし、ベルと深紅も『やっとか』って言ってた」
「そっか……。でも、それで睦月くんが大学に通いづらいとかはない?」
「まさか。別に俺は一人でも余裕で動ける。むしろ俺は一人の時間を欲していた人間なんですけど」
そうだった。
ずっと睦月くんは一人になれなかった人なんだ。
私としては仁坂さんと離れてくれるなら嬉しいけど……。
「サークル辞めた事でバイトに沢山入れるようになったし、これで紗綾になんでも買ってあげられる」
「え!?そ、そんなの悪いよ!」
「俺は紗綾のために働いてるのに?」
「私のためだけじゃないでしょ!?」
そんな事を言い合っているとお母さんが私と睦月くんを呼んだ。
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