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「睦月くんは夏休み、地元の友達と遊んだりしないの?」
「別に遊ぶ必要ないかなって」
「え?どうして?」
「だって、ベルや深紅と違って一緒に居ても楽しくないし。別に相手も俺の事、ただの『道具』としか見てないだろうし」
イケメンって、大変なんだな。
そう思いながら、睦月くんの今までの生き方がとても悲しいものだったのが分かってしまう。
友達と呼べる人が居なくて、それでも自分に擦り寄ってきて。
挙句に利用されるだけの人生。
そんなの、何も楽しくないよね。
「ベルちゃんや久篠くんと出会えてよかったね」
自然とそう言うと睦月くんは嬉しそうに笑った。
二人が睦月くんを見つけてくれて良かった。
大学でも睦月くんが苦しい生活を送る事になっていたかもしれないと思うとぞっとする。
サークルを辞めたって聞いたときは睦月くんの友達が減ってしまうし、これからの生活に何か支障が出るような気がしてたけど、ベルちゃんと久篠くんが一緒なら大丈夫な気がしてきた。
近くの公園に立ち寄って二人でベンチに座る。
何気ない会話がこんなにも嬉しくて楽しい。
大学での睦月くんの様子とか、私の会社の話とか。
この間の飲み会で出会った先輩たちが睦月くんをとても気に入ってたと言うと『凄く嬉しい』と言ってくれた。
「そうだ、この近くに期間限定でソーダの専門店があるんだって。深紅から聞いた」
「そうなの?」
「近いし、俺買ってくるよ」
「え?一緒に行くよ」
「ううん。紗綾、歩き疲れたでしょ?ちょっと待ってて」
確かに少し疲れたなとは思ってたけど……。
私が何かを言う前に行ってしまう睦月くん。
仕方なく私はその場で待つことにした。
高校を卒業してからそんなに経ってないけど、社会人になると地元の風景ってこんなに違って見えてくるんだな。
懐かしいっていうか、ホッとする感じ。
元気に走り回る子供たちを見て自然と微笑んでしまう。
そんな時。
「園原さん、だっけ?」
「え?」
突然声をかけられて振り向いてしまう。
そこには忘れもしない顔。
恐怖で一気に血の気が引いていく。
どうして私は頭になかったんだろう。
ここは地元なのだ。
そして夏休みの真っ最中。
地元に帰ってくるのは何も私だけじゃない。
同じ地元の人だって帰ってくるに決まってるじゃないか。
私に不気味な笑みを向けてくるのは、高校生の時に私をいじめていた一人。
『優等生』の加藤くんだった。
彼と睦月くんは小学生の頃からの知り合いで、確か高校生の時も睦月くんと一緒にいた。
誰も彼が私をいじめてるなんて思ってなかっただろう。
だって『優等生』なんだから。
私は彼に何度も『睦月に近づいたら殺すから』と笑顔で牽制されていたのだ。
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