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加藤くんはしばらく私と睦月くんを見て、それから壊れたように笑いだした。
「あはは!やっぱり睦月、園原さんの事好きになったんだ!だから近寄らせたくなかったんだよ!!」
「なんでお前にそんな事言われなきゃなんないの?気持ち悪いから紗綾にこの先永遠に近寄らないでもらえる?」
睦月くんはそう言うと私の手を引いてその場から立ち去った。
やっぱり、睦月くんの手は安心する。
睦月くんの家まで戻ってくると睦月くんは私を部屋に入れた。
そして思いっきり抱き締められた。
「驚いた……」
「あの……ありがとう、睦月くん」
「なんでお礼言うの?当たり前でしょ。間に合ってよかった、ほんと」
「睦月くん……」
「怖かったでしょ?高校生の時からずっと紗綾の事見てたし、アイツが異常だって事も分かってたから、卒業したし関わる事なんてないって思ってたけど……。ここ、地元だもんね。油断した俺が馬鹿だった」
睦月くんは深く息をつくと私の顔を見た。
「一人にしてごめん」
「そ、そんな!謝らないで!」
「今回は完全に俺が油断したし、俺が悪い。紗綾が可愛い事なんて俺が一番よく知ってるわけなのに」
「か、可愛い……っ」
「可愛いじゃん。無自覚って怖いよね」
そう言うと睦月くんは軽く私にキスをしてから離れた。
「深紅達が、紗綾の休みの事もあるから明日一緒に遊ぼうって」
「あ、うん」
「もう絶対に一人にしないから」
「気にしなくても……」
「気にするでしょ。怖い思いさせたし、嫌なことだって思い出させたわけだし。『気にするな』って言われる方が無理」
完全に落ち込んでいる睦月くんを励ましながら睦月くんの頭を撫でる。
それでも彼の落ち込みようは変わらなかった。
睦月くんのご両親にも気にされていたけど、睦月くんは落ち込みながらご飯を食べて、そして落ち込みながら眠りについた。
睦月くんのせいだとは全然思ってないし、むしろあの時自分で何も出来なかった事に私が落ち込みそうだ。
加藤くんの手を振り払えたら、あの時大声で助けを呼べたら。
そんな事を考えてしまって、私も暗くなりそう。
いつまで私はこんなに弱虫でいるのだろうか。
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