114人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
実家への帰省を終え、私と睦月くんはベルちゃんと久篠くんと一緒に水族館へ来ていた。
長期休暇に入っているし夏休みなので人で溢れている。
睦月くんと久篠くんが前で話している後ろで私はベルちゃんに加藤くんの事を話した。
「うわー、何それキモイ。そんな奴に好かれてるとか考えるだけで吐きそう」
「私がもっとちゃんと拒絶出来ていれば睦月くんが嫌な思いしなくて済んだのかな……」
「別に紗綾は悪くないでしょ。怖くなるのも当然だし、むしろ紗綾を一人にした睦月が悪い」
「そ、そんな事……」
「好きな子に意地悪する男子とかっていたけど、好きな子をいじめの対象に仕立て上げるって相当やばいからね。やってる事サイコパスだから」
「だよね……」
「ていうか、私とばっか話してていいの?」
「え?」
「睦月にめっちゃ睨まれてるんだけど」
そう言われて前を向くと睦月くんが私の手を掴んだ。
「ベルと仲いいのはいいけど、俺にも構って」
「え!?」
「紗綾にだけ出る甘えた睦月くん登場ー」
「ベルうるさい」
睦月くんはベルちゃんを恨めしそうに見ると私に笑った。
「紗綾、紗綾の好きなペンギンだよ」
「あ!ほんとだ!」
前の水槽では楽しそうに泳ぐペンギン達。
いろんな種類のペンギンがいて、それぞれが楽しそうに過ごしている。
「ペンギンって泳ぐの速いね!」
「プカプカ浮いてる子もいる」
「わ!可愛い!」
はしゃぐ私を微笑ましく見ている睦月くん。
浮いているペンギンを写真に収めていると久篠くんが笑った。
「ペンギンでいきなり紗綾ちゃん本気出したじゃん」
「騒いでる紗綾が可愛い」
「睦月は相変わらず紗綾ちゃんに対して甘いよねー」
「確かに紗綾可愛い」
「あ、ベルもだった」
ペンギンにはしゃいで、それからも水族館の中を回って。
大きな水槽には沢山の魚たちが泳いでいた。
幻想的なその光景に目を奪われる。
嫌な事全部吹き飛びそう。
「そういえば、気になってたんだけどさ。睦月ってサークル辞めてからサークル連中から連絡きてるの?」
久篠くんがそう聞くと睦月くんは眉を寄せた。
「めっちゃくる」
「当たり前じゃない?あの人達って睦月の事大好きだったし」
ベルちゃんはそう言いながら近くを泳ぐサメを写真に収めていた。
「夏休み終わったら睦月、サークル連中に囲まれるんじゃない?」
「そうなったら助けて」
「睦月なら簡単にやり過ごせるでしょ」
「確かに」
久篠くんがベルちゃんの言葉に笑う。
睦月くんは不服そうな顔をしていた。
本当に仲良しだな。
この人たちの仲間にしてもらえてるなんて、とても幸せな事。
高校の時の私では考えられなかった。
睦月くんに近づくことすら許されなかった私では……。
ギュッと手を握り締めて私は水槽に目を戻す。
彼に似合う女の子になりたいって気持ちは昔と変わらない。
……もっと、頑張らないと。
・
最初のコメントを投稿しよう!