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「無理しないで。私、頑張るから」
「紗綾に何かあったら、普通に俺殺人犯しそうだから一緒に行く」
「え!?」
「もうすぐで来るよな」
振り向いて久篠くんに確認する睦月くん。
久篠くんはスマホを見て呆れたように笑った。
「あと3分後だって」
「分かった」
睦月くんは私の手を握るとそのまま玄関を出た。
一緒にエレベーターに乗って一階に向かう。
「睦月くん……」
「会いたくないよ、本当は」
「じゃあどうして?」
「でも、絶対にあいつらは紗綾を傷つける。今までだって何度も紗綾が傷つく事言ったし、今回だって絶対に言うに決まってる。信用出来ない人の中に大事な人を一人で行かせるなんて、そんなの紗綾が良くても俺が良くない」
エレベーターが一階に着く。
降りるとエントランスの自動ドアの前には仁坂さん達がいた。
「あ、睦月」
「あれ?あれって彼女じゃない?」
「あー、じゃあ一緒に遊ぶの無理そう?」
口々に勝手な事を言っている。
こういうの、私も苦手だな……。
「……何しに来たの?」
冷たく睦月くんがそう言うが彼らは平気な様子で返した。
「一緒に遊ぼうと思って!」
「もうサークル辞めたじゃん」
「サークル辞めても俺らって友達じゃん」
「友達……?」
「今度皆で旅行行こうって話してたんだけどさー、睦月も行くでしょ?色々一緒に決めようと思って来たんだよねー」
「睦月くんはどこに行きたい?」
もう睦月くんが旅行に行く前提で話が進んでる。
こんなの気分悪い。
睦月くんが可哀そうだ。
睦月くんの自由を彼らは奪ってる。
ギュッと手を握り締めて反論しようとするとデリバリーの人がやって来た。
「あのー、田原さんっていらっしゃいます?」
「あー、俺です」
「良かったー!沢山いらっしゃるからビックリしました」
ニコニコ笑う男の人は私達の様子を見て首を傾げた。
「なんで、ここで話してるんです?」
周りから見ればそれは不思議な光景だろう。
エントランスの自動ドア越しに話してるなんて。
私は慌ててデリバリーの方に走った。
開く自動ドア。
その瞬間を、彼らは見逃さなかった。
しまったと思った時には遅くて、睦月くんはサークルの人達に捕まっていた。
「紗綾ちゃん」
そう呼ばれて隣を見れば仁坂さんが綺麗に微笑んでいた。
「私達に睦月くん、貸してよ」
「え……」
「だって紗綾ちゃんはいつでも会えるでしょ?彼女なんだし。私達だって睦月くんと遊びたいし、やりたいこといっぱいあるの。少しくらい貸してくれてもいいと思わない?」
仁坂さんの言葉に睦月くんに絡みついている女の子達が一斉に口を開いた。
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