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楽しそうな、賑やかな声。
聞きなれた睦月くんの周りの賑やかな音。
『睦月何してんの?もうお店行くよー?』
『つーか誰に電話してんの?』
久篠くんでも、ベルちゃんでもない。
もっと大勢で、私の知らない世界の人達の声。
「……どこにいるの?」
『え?どこって、招待状に書いてあったでしょ?駅前の居酒屋』
「駅前の……」
『今日、高校の同窓会でしょ?楽しみだねってメッセージ送ったじゃん。紗綾も参加するんでしょ?楽しみって返ってきたからてっきりそうだと……』
招待状も、同窓会も、知らない。
私は自分の誕生日だって、そんな自分勝手な予定を思い出して勝手に浮かれていたんだ。
……好きな人に誕生日を忘れられている事に、今凄くショックを覚えている。
何かのテレビで言っていたのを思い出す。
長く付き合っていると相手の誕生日も忘れてしまうし、付き合いたてのような記念日に何かするって事が無くなっていくんだって。
それで別れてしまうカップルもいて、いわゆる倦怠期って言われるものになっていくんだ。
私に招待状が届かなかったのは、誰も私の事なんて覚えていないから。
友達もいなかったし、誰も私の住んでいる場所に興味なんてないから。
私が就職した事も、私が睦月くんと付き合ってる事も、絶対に誰も知らないんだ。
ああ……私ってば……。
何時までも受け身でいた罰だ。
「そ…か……。今日、同窓会なんだ」
『なんだって、知ってるでしょ?』
「知らない」
『え?』
「だって私、招待されてないし。でも当然だよね。友達いなかったし、地味で目立ってないし、何ならいじめられてたし。そんな奴がどこで何をしていようと、皆にはどうだっていいよね」
『紗綾……』
「ごめんね、睦月くん。私、勝手に勘違いして確認もせずに返事しちゃって。紛らわしかったよね」
『ちょっと待って。勘違いって……』
「私の事は忘れて、たくさん楽しんで。久しぶりに友達に会えるんだから」
『紗綾…っ』
「ごめんなさい」
電話を強制的に切ると同時に涙が頬を伝った。
誕生日、忘れて当然だよね。
私だって忘れてたし、もう何度も祝ってもらってる。
毎年祝う必要なんてないよね。
「睦月くん、私の事好きじゃなくなってきてるのかな……」
そう考えるととても悲しいけど、仕方ない事だって分かってる。
彼の周りには可愛い人がたくさんいて、話も続くし楽しい時間を過ごせるような人は多くいるんだ。
私みたいなつまらない女なんて、ちょっとした遊びに決まってるのに。
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