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睦月くんに会いたい。
睦月くんと話したい。
睦月くん 睦月くん 睦月くん……
______あれ?
『睦月くん』って、だれだっけ……?
ゆっくり目を開けると、そこは知らない場所だった。
真っ白な天井、たくさんの機械。
病院に似ているその場所は、病院で間違いないんだろうか。
「紗綾!」
誰かの声が聞こえて声の方を向く。
知らない女の人、知らない男の子、知らない女の子……。
知らない人4人が私の側に駆け寄ってくる。
どうしてこの人たちは泣いているの?
それに……
「『さや』って、だれ……?」
私がそう言うと4人が固まった。
「ここは病院?皆は誰ですか?私は……誰、ですか?」
自分が誰なのか分からない。
私って誰?
ていうか、どうして私は病院にいるの?
記憶が…ない……?
そう理解した瞬間、私の目から涙が零れた。
なんで私、何も覚えてないの?
何も分からないの?
「紗綾……なんで……っ」
女の人が泣き崩れる。
その女の人を支えている男の子。
綺麗な顔のその男の子は泣きそうな顔で女の人をソファーに座らせて私の側に歩いてきた。
「君は、『紗綾』。それが君の名前」
「さや……私……?」
「あの人は紗綾のお母さんだよ」
「お母さん……」
泣いている女の人を見ていると胸が痛くなる。
ぎゅっと服を握ると男の子が続けた。
「こいつはベル。それからこっちは深紅。紗綾の友達」
「友達……」
綺麗な女の子と綺麗な男の子。
二人は泣きそうな顔で笑った。
「俺は睦月。紗綾の彼氏だよ」
「彼氏……」
彼の…睦月さんの話を聞くと胸の奥が締め付けられるのはどうしてだろう。
睦月さんが嘘をついているような感じはない。
周りの人が私を騙すのも意味が分からないから無いだろう。
じゃあ、私は……。
「記憶が、無い……?」
忘れてしまったんだ、この人たちを。
泣いてくれているこの人達の事を。
何も覚えていなくて、それなのに涙は際限なく溢れてきて。
「なんで……っ?」
思い出したいのに思い出せない。
どうしてこうなったのか分からないし、この人達を覚えていない事に罪悪感があるし。
泣かせてしまった自分が情けない。
「ごめんなさい……っ」
「紗綾……」
「ごめんなさい……っ」
どうしてこんなにも虚しくなるんだろう。
私の事を優しく抱きしめてくれる睦月さん。
その腕の中は何故か安心した。
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