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次に睦月くんが来たら言おう。
もう音夢ちゃんに迷惑かけたくないし。
……だけど、どうして私は睦月くんと別れたかったんだろう。
睦月くんは本当に優しくて頼りになる男の子だ。
記憶を失くしてももう一度好きになってしまった男の子。
記憶をなくす前の私は睦月くんが嫌いだったの?
今は、好きなのに……。
前の私が彼に何をされたのかは分からない。
でも、今の彼は私の記憶が戻る事を誰よりも望んでくれている。
隠したい何かがあるのなら、記憶が戻らない方がいいんじゃないのかな。
考えても分からないし、一向に思い出せないもどかしさ。
音夢ちゃんの事は信用しているけど、本当に私は睦月くんと別れたかったの?
疑うわけじゃないんだけど……。
記憶をなくす前の私が音夢ちゃんに相談していたからと言って、別に音夢ちゃん以外の人に言っても問題ないよね?
ベルちゃんが帰ってきたら相談してみよう。
そう決意して私は窓の外を見た。
しばらくするとベルちゃんが買い物袋を持って戻ってきた。
「おまたせ。これだって」
そう言って見せてくれた洗剤を見て、何だか懐かしい気持ちになった。
だけど思い出せることは何も無かった。
「ごめんね、ベルちゃん。せっかく買って来てくれたんだけど、思い出せない」
「そっか……。じゃあもうこれは、マンション行ったり事故現場行ったりしないと思い出せないか」
「それなんだけど、この間先生に聞いたらちょっとの時間なら外に出てもいいって許可が出たの。誰かと一緒じゃないとダメなんだけど」
「そうなの?」
「うん。警察の人に来週一緒に事故現場に来て欲しいって言われてるから、お母さんと一緒に行こうと思って」
「私も一緒に行く。睦月と深紅も連れて行こう。もし何か思い出して取り乱したりしたら大変だし、睦月が居れば安心出来るでしょ?」
睦月くんが居れば安心……。
実際その通りだ。
睦月くんの近くは安心する。
そんな人と別れたかった?
何だか胸の奥がざわざわする。
「あの、ベルちゃん」
「ん?」
「ちょっと相談があるんだけど、聞いてもらっていい?」
改まって言うとベルちゃんが真剣な顔で私と向き合ってくれた。
「あのね、ベルちゃんから見て私と睦月くんってどんな感じだった?」
「睦月と紗綾?そりゃ仲良しカップルって感じ。睦月の溺愛が気持ち悪かったけど」
「仲良しカップル……」
「そんな事聞いてどうしたの?」
「……私って、睦月くんと別れたかったのかな」
「え?」
信じられないといった様子のベルちゃん。
ベルちゃんは睦月くんと仲良しだから、私がそう言っても信じられないのかな。
だけど私も信じられないのだ。
本当に彼と別れたいと思っていた?
たとえ前の私が睦月くんを嫌っていても、今の私は睦月くんを好きなんだ。
付き合っているのなら、そのままでいいなんてズルいのかな。
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