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「どうしてそう思ったの?睦月が何かした?」
「ううん、違うの。本当に睦月くんは理想の彼氏だと思うし、記憶が無くても私は睦月くんを好きになった。同じ人に二回も恋するって本当にあるんだなって思ったくらい」
「それなのに別れたいの?」
「今の私はそんな事思ってないよ。このままずっと睦月くんと付き合えたらなって思ってるくらいズルい女だもん」
「別にズルくないでしょ。睦月と婚約してたくらいだし」
「婚約?」
「うん。ほら、自分の薬指に指輪ついてるでしょ?それ睦月が紗綾にプレゼントした婚約指輪」
婚約指輪……。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中に嬉しそうに笑っている睦月くんの顔が浮かんだ。
ズキっとした頭を押さえる。
『俺と結婚してください』
『紗綾の未来を俺に頂戴』
そう言って笑ってくれた睦月くんの笑顔を思い出して涙が零れ落ちた。
そうだ、私は睦月くんと未来の約束をした。
約束をしたのに、どうして私は睦月くんと別れたいの?
……違う。
私は、睦月くんと別れたくなんてない。
だけど、そうなったら音夢ちゃんの言っていた事は?
私は音夢ちゃんに相談していたんでしょ?
それはどうして?
どうしてそんな相談を彼女にしたの?
こんなにも親身になって毎日来てくれるベルちゃんじゃなくて。
「ベルちゃん……」
「紗綾?」
「私と音夢ちゃんは、本当に友達?」
そう聞くとベルちゃんの顔色が変わった。
「ちょっと待って。ここに仁坂音夢が来てるの?」
「うん」
「どうして……だってあの子、紗綾の事嫌いじゃん」
「え?」
「だって、紗綾は睦月の彼女でしょ?あの子はずっと睦月が好きで、紗綾に嫌な事ばっかしてたじゃん。大学でも睦月のストーカーみたいにずっとつきまとってるし」
「嫌がらせ……?待って、私と音夢ちゃんは親友だって……」
「親友?違うよ。あの子が紗綾の親友なわけない」
彼女は確かに私に『親友』って言った。
私の話を聞いてくれた。
音夢ちゃんから聞いたんだ。
『紗綾ちゃんは睦月くんと別れたかったんだよ』って。
私が睦月くんと別れれば、自分が睦月くんと付き合えるから?
だから私に別れろって言ったの?
信じたくないけど、ベルちゃんが嘘をつくのもおかしい。
私はどっちを信じればいい?
何を信じたらいい?
「仁坂音夢……あの子、紗綾の記憶がない事を良いことに好き勝手やってるって事か」
ベルちゃんが嫌そうに顔を歪める。
それから私の指についている指輪を指さした。
「紗綾、その指輪はしっかり守るんだよ。紗綾は睦月を信じてあげて」
「え……」
「睦月はいい加減な気持ちで紗綾と付き合ってるわけじゃない。こんな事になっても紗綾と別れようとしないし、むしろ記憶が無くてもずっと側に居るって言ってるくらい。たとえ彼氏として認めてくれなくても、その時はもう一度紗綾を好きにさせるって言ってた。あのね、睦月は気持ち悪いくらい紗綾が好きなんだよ」
その言葉はスッと私の中に入ってきた。
それから頷いた。
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