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「状況は何となく分かりました。その女性の動機も何となくは。ただ、その女性を捕まえるのは少し難しいですね」
「そうなんですか?」
睦月くんの言葉に刑事さんは頷いた。
「はい。証言は被害者である園原さんのものだけ。それだけでは警察は踏み込めないんです。他に誰か見ていればと思い聞き込みをしましたが、誰もその現場を見ていない。それから、不自然な事が」
「不自然?」
「園原さんが事故に遭われた際に連絡をしてきたのはその仁坂音夢という女性です」
驚いた。
だって、私を車道へやった本人が警察に連絡をしたなんて……。
何を考えて……。
「ただ、彼女は『警察にのみ』連絡をしました。救急車を呼んだのは違う人です」
「え?」
「その時から少しおかしいなとは思っていました。人が事故に遭い、道路でぐったりしている場面を見たらまず先に警察より救急車を呼びませんか?どうして彼女は先に警察へ連絡したんだろうと思っていました」
刑事さんの言葉に睦月くんは何かを考えて口を開いた。
「すみません、少し聞いてもいいですか?」
「はい」
「その救急車を呼んだ人って、俺と同じくらいの男の人じゃありませんでしたか?」
「その通りです。どうしてそれを?」
「やっぱり……。俺、そいつ知ってるかもしれません」
睦月くんの言葉に刑事さんが目を見開く。
「同じ大学に通ってるやつだと思います。仁坂の事をずっと好きなやつで、仁坂に言われた事は絶対にやります」
そんな人が居たんだ。
じゃあ、どうしてその人は救急車を呼んでくれたの?
きっと仁坂さんは私を殺したかったはず。
だから救急車を呼ばなかった。
きっと男の子にだって警察の人に何か聞かれても口裏を合わせていたに違いない。
それなのに……?
「園原さん。貴女がもうすぐ退院できる事や記憶を取り戻した事を彼女は知っていますか?」
「いいえ……」
「貴女がリハビリしている時に来た事は?」
「ありません……」
「それなら、お願いがあります」
「お願いですか?」
「はい。少々危険を伴いますので、お二人で相談していただきたいのですが……」
刑事さんは言いにくそうに下を向いた。
「囮になっていただけませんか?」
その言葉に睦月くんの顔が青ざめた。
「囮って……」
「仁坂音夢は必ずこの病室へ来ます。きっと彼女は私達が出入りしている事も知っている。もしかしたら記憶を取り戻しているかもと考えているに違いありません。彼女が園原さんを殺したいのであれば、きっとここへやってきます。その時に園原さん、貴女は記憶が戻っていないフリをしてください」
「でも、仁坂さんは刑事さん達と一緒に私があの道路へ行った事を知っています」
「え?」
「居たんです。見てたんです。だからきっと知ってる。私の記憶が戻ったって知ってるはずです」
そう言うと刑事さんは私の頭に手を乗せた。
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