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「もう大丈夫ですよ」
その言葉にホッとして泣きそうになった。
思い出せて良かった。
睦月くんとの思い出を全て忘れているなんて、そんなのどうしていいと一瞬でも思ったんだろう。
こんなにも思い出せて嬉しいのに。
それからしばらくして、私は退院した。
リハビリを頑張ったから今は普通に歩けている。
会社に行くのは随分と久しぶりだった。
大学に行く前に私を会社まで送ってくれる睦月くん。
あの日から睦月くんは私を一人で歩かせないようにしている。
過保護だと思うけど、ベルちゃんや久篠くんも睦月くんに賛成しているから私の意見は聞き入れてくれない。
「俺今日バイトだから、仕事終わったら近くのカフェに居て。一人で絶対に帰ったりしないで」
「大丈夫だよ。私は一人でも帰れる……」
「絶対にダメ。またあんなことになったら俺、耐えられない。紗綾が俺の事忘れてた事に心臓凍ったんだから。あんな思い二度としたくない」
睦月くんが本当に悲しそうに言うから私も申し訳なくなってくる。
私は頷いて睦月くんに手を振った。
会社の中に入ると皆が私を見て驚いた。
「園原さん!」
「大丈夫!?もう平気!?」
「しんどいとかない!?」
「大丈夫です。長い間お休みをいただいてしまい、本当にご迷惑をおかけいたしました」
頭を下げると先輩が上げてくれた。
「謝らなくていいよ!全部園原さんの彼氏さんから聞いてるから」
「え?」
「飲み会で出会った子でしょ?園原さんの事事故に遭わせたの。あの子危ないなとは思ってたんだけど、まさかこんな暴挙にでるとは思ってなかった」
そういえば飲み会の時に先輩は仁坂さんに会ってるんだっけ。
あの時助けてくれたんだよね。
「無理はしないようにね。全力でフォローするし、彼氏さんからは絶対に園原さんを一人にしないでって言われてるから」
睦月くん、まさか会社にまでそんな事を言ってるなんて……。
私は困ったように笑った。
「園原の事聞いた時、やっぱり仁坂のせいでこうなったんだって思って、もっと注意しておくべきだったって反省した。睦月にも悪い事したってずっと思ってて……」
茂住くんは私の側でシュンと項垂れていた。
私は首を左右に振った。
「茂住くんのせいじゃないよ。私が気を付けなかったのが悪い。茂住くんはずっと言ってくれてたのに、ちょっとでも油断したからこうなったんだよ。睦月くんも茂住くんのせいだなんて一ミリも思ってないよ」
「園原……」
茂住くんは元気なさげに笑った。
【狂気のお姫様】
~彼女は好きな人を手に入れるためなら手段を選ばない~
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