第1章

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 そこで自分で履いて、穿き心地やサイズ感なんかを試してみることにした。最初は勿論自分の部屋でやっていたのだが、それでも、本当にしっくりきてるのかどうか、狭い俺の部屋ではいまいちよく分からなかった。 やがて、自分の部屋に満足できなくなった俺は、より実際に近い形でそれらを試すべく、外へ出るようになっていった。幸い俺は体格的に小柄で華奢な方だし、ウィッグを付ければ、遠目から見たら女性に見えなくもない  女の恰好なんかして出歩いて変な奴と思われるだろうか? 勿論、葛藤がなかったわけじゃない。でもそれよりも……・自分が作った服の完成度を上げること、そして街の人に自分の作った服がどんな風に見られるのかという好奇心の方が勝ってしまった。  こうしていてもたってもいられなくなった俺は部屋のドアを開けたのだった。 最初は深夜に近所のコンビニまで出ていくくらいだった。反応は――意外に普通だった。誰も俺が男だと気づいた様子もなかったし、服についても変な反応はなかった。しかし、人が少ないせいか、いまいちしっくりこない。 俺はより多くの人の視線を求めた。いつしか夜が昼になり、近所はやがて街になった。  途中、自分でも気づいた。段々目的が当初のものからずれてきていることに……  気づけば、作る服も女性ものばかりになっていた。 いや、違うんです。これは飽くまでユーザー目線に立ったデザインをするための努力なんです。飽くまでユーザーの気持ちを深く知るための実地調査なんです。とか、心の中で自分にいい聞かせていたのだが……  しかし、いくら心の中で言い訳してみたところで最近、その実地調査を心から楽しんでる自分がいた。そして作品の有無に関係なく、実地調査の回数は段々と増えていった。  今日も休日を利用して、初めての街へ実地調査。一通りショッピングをしての帰り際、駅のホームで電車をまっていた俺は、突然一人の女性に声をかけられた。  ――そして現在に至るといわけ。  しまったぁ。調子に乗り過ぎた。今日はいつになく、遠出をしてしまったかなぁ。後悔してももう遅い。 「あたし、一目で素敵だって思っちゃたんですよ」  こっちの気持ちも知らずに女性はさらに話を続ける。いい加減、解放してほしいが、その方法が分からない。そもそも話の内容的には最高だし、容姿もかなりお洒落で俺好み、話を聞いていたい気持ちもないわけじゃない。
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