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しかし、いくら外見を着飾っているとはいえ、俺は飽くまで男だ。これ以上会話が長引くと、俺が男だということがばれてしまう恐れが……
「その服どこのブランドですか?」
「いや、これはその自作でまだ販売とかしてないんです……ゴニョゴニョ」
「えっ、自作なんですか、それ。凄い」
「いやぁそれほどでも」
「実はあたしの知りあいにもデザイナーやってる人がいて……」
「じゃあ、あたしはこれで……」
帽子を目深に被ってそそくさとその場を立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってくださいよ。まだいいじゃないですか」
「いえ」
彼女が、立ち去ろうとする俺の袖口を引っぱる。
「あ、それ井上マークじゃ……」
袖口縫いつけられたワッペンを見つけて、女性は思わず声を上げた。
「ええ。そうですけどって……え?」
井上マークは俺が考えたブランドマーク(仮)だ。いつかはこれを天下に轟かせたい。と思っているが、今の所、俺の身内以外にはまったくの無名。
なんでこの人が知ってるんだ? ってか、今声が一瞬低くならなかったか?
「いや。なんであなたがこのマークのこと知ってるんですか?」
「あ、しまった」
「今しまったって聞こえたんだけど……」
あ~やっちまった、みたいな顔をしている。そのままいっきその場から立ち去ろうとする彼女の手首を今度はこっちがぎゅっと掴む。
「待て。お前誰だ?」
ついこっちも地声が出てしまう。
「あ、その声。やっぱり井上さんですか?」
その声には聞き覚えがあった。
「俺です」
そう言って女性は髪の毛を取った。
「って君は……」
彼女がウィッグを外すと、そこには見慣れた顔が現れる。っていうか事務の宮本くんがいた。
「何やってんの君?」
「いや、その……趣味でして」
そういって宮本くんはテヘへと頭を掻いた。
完
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