第1章

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 魔法会議場の中には大勢の人間が集まっていた。  貴族の正装で固めた執務院議員、大げさな帽子とローブに身を包む有識魔導士、そして聖騎士団上位層。円形に立ち並ぶ皆々の中心で、ラルフ・フェミノフォビアは堂々と宣言した。 「ではこれにて、第176回第七魔法都市運営会議を閉会いたします」  石造りの会議場によく響く精悍な声。異議は出ず、この日もまた彼の手腕によりつつがなく会議は終わった。  人口約8万7千を擁する、ムーア帝国下第七魔法都市。その運営は多数の機関による合議で行われているが、その中心といえばただ1人。魔法都市防衛聖騎士団団長、ラルフ・フェミノフォビアその人だ。  41歳という執政者としては若い齢を持ちながらも、その頭脳と剣の腕前は他の魔法都市と比べても類を見ない。その上魔法にまで長け、市民の信頼も厚く都市のためならば砕身し剣を振るうと非の打ち所がない男だった。ついでに言うと逆立った金髪と精悍な顔立ち、鍛えられた肉体も市民から人気を集めている。  今日も彼は早足で、魔法都市の幹部である執務院を歩いていた。 「今日の議決をまとめ、翌日執務院に提出させてくれ、特に防壁再建の予算組を正確に。訴訟が17件来ていたが内8件は下級院で済むからそちらへ。数日日照りが続く、作物への影響の調査も必要だ」 「はい、わかりました」  会議が終わっても休むことなくその口からは執政事項が続けられる。そばを歩く団長補佐ローレンスは次々にメモをとり対応した。21歳の青年ローレンスはラルフ団長に憧れて騎士団に入った男で、そういった者は団内には大勢いた。 「……本日対応すべきことは以上だな。ローレンス、お前が気付いたことはないか?」 「あ、えっと、団長は今日も凛々しいな、と!」 「ないようだな。これで一段落といったところか」  ラルフはコキコキと首を回した。彼は『都市を守るという意思を絶えず持つためだ』と執務中は常に鎧を身につけているため、疲労のほどは相当なものだろう。都市のためと無理をする団長を、ローレンスは心配しつつも誇りに思っていた。 「さて……では私は療養に入らせてもらう。何かあったら通信魔法で伝えてくれ」 「はい」
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