指環

3/9
前へ
/9ページ
次へ
怪訝そうに私を呼びにきた夫に、思わず左手を隠してしまう。 「どうかしたのか?」 「ううん、なんでもない」 笑って誤魔化してみたものの。 いつまで通じることやら。 なくしてしまった指環は、夫からもらった婚約指環だ。 結婚してからは大事な行事があるときにだけ、使っていた。 私がそれをはめる日はなぜが夫の機嫌がよく、そういうのも嬉しかったんだけど。 ……なくした、とかバレたときのことを考えると気が重い。 呼んであったタクシーに夫と娘、三人並んで乗る。 今日は夫の妹の結婚式だ。 「ママー、かわいいゆびわはしないの?」 私の左、真ん中に座っていた娘が、目ざとく指環がないことに気がついた。 「ほんとだ。 どうした?今日はつけないのか?」 「あー、あのね?」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加