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一
「こ……、これで……」
荒い息を吐きながら、腰に両刀を手挟んだ侍らしい男が死体の前で呟く。
行灯の灯りに照らされている腕は痩せこけ、筋肉は余り無い。
何処か、地方から出てきたのであろうか。
「き、貴様等が……」
憤りか、瘧の様に震えるのか認められた。
とは言え、これ以上は刀を振る力も無いのか大きく息を吐く。
懐を探り、財布を奪う。
食い詰め浪士かと思いきや、灯りで映る頭には月代。
勤番、主持ちの侍だと言うのが見てとれる。
それにしても、かかる夜に勤番が出歩くのは珍しい。
殆どの侍、勤番は暮六ツの鐘がなる前に帰宅せねばならず門限破りは処罰の対象と言えた。
若し、夜に動ける職種が在るとすれば。
南北の奉行所で緊急事態に備えている当番方や町火消人足方、火盗改メ辺りしか居ない。
城勤めであれば宿直辺りだが、そもそも職務中に抜け出す事は不可能だろう。
どうにも、侍が夜に人を殺すと言うのは田嶋や主馬。
主税と言った八丁堀、そして火盗改メの様な取締り機関しか動けない。
その他とすれば、隠密。
江戸幕府の職種であれば、御庭番だろうか。
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