~第一話~ 単衣物、金で紡ぐは恨み糸

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 常廻り同心は、数年に一度くらいの頻度で受け持ち区域が変更になる。  主馬が文政最後の殺しをしてから数年、見廻り区域が変わっていても可笑しくは無い。 「今は臨時廻りなもので」  本来、常廻りは三十代後半から四十代でなる職務。  臨時廻りは、その常廻りを勤め上げた四十代後半から五十代と決められているのだ。  これは、如何に経験から捕物が得意だとしても。  体力に証せた荒事を治めるには体が追い付かないと言う事からだろう。  おいるとは、そう言う事だ。  とは言え、武術では全く逆の事が多い。  若い者が力任せに打つ業を、いとも簡単に避け。  強かに打ち込んで悶絶させる。  真剣勝負なら、簡単に相手を斬り殺すなど普通にしてのけると言っても過言では無い。  まして臨時廻りともなれば、舌先三寸で自供を引き出す事も充分に出来よう。 「偉くなッたもンだなァ」  常廻りになれたのであれば、臨時廻りを約束された様なもの。  出世コースでは無くとも、付け届けは多少なりとも色が付く。  廻り方と言うのは、それだけ花形だと言う事だ。 「僻み、ですか……? そう言や、鈍亀が見当たりませんけど……。これ、ですか……」
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