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月風早由香は、本が好きだ。今日も彼女は行きつけの書店へと足を運ぶ。
「やあ、いらっしゃい、早由香ちゃん」
「こんにちは」
「今日の開店一番乗りだよ」
「えっ……もう昼過ぎですよ?」
「ここは大通りから路地の奥に入った場所にある書店だからね。滅多に人は来ないし、閑古鳥は鳴きっぱなしさ」
店主は自虐的にため息をつく。
「でも、早由香ちゃんが来てくれるから、俺は生きていけるよ。早由香ちゃんはウチの女神様だ」
「もう……何回目ですか、そのセリフ」
「百回から先は覚えていない」
キリッ!!と、大真面目な顔をする店主に、早由香はクスクスと笑った。
「ま、それはともかくとして、早由香ちゃんに読んでもらいたい本があるんだ」
「読んでもらいたい本、ですか?」
「そう。これこれ」
そう言って店主が差し出したのは、表紙が何も書いていない本だった。
「実はこれ、俺が書いた本なんだ」
「店主さん、お話書くんですか?」
「まあ、趣味でちょこっとね。ただ恥ずかしくて、今まで誰にも見せたことがないんだ」
「そんな本を、私が読んでもいいんですか?」
「一番最初に早由香ちゃんに読んでもらいたいと思ってさ」
「ありがとうございます。それでは、家に帰ってから読ませて頂きますね」
「いや、ここで読んでいってくれないか?」
「えっ、どうしてですか?」
「すぐに感想が聞きたいんだ。早由香ちゃんなら20分くらいで読める内容だから、お願い!」
店主が両手を合わせて、早由香に頭を下げる。
「わ、分かりました……まだ、時間もありますし……そこまで仰るのなら……」
勢いに押される形で、早由香は本を受け取った。
「じゃあ、ここに座って。今、お茶も持ってくるから」
「あっ、おかまいなく……」
店主はバタバタと店の奥に行ってしまった。
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