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「明日もお互い仕事だもんな。寝る時に電話なんかしてごめん、おやすみ」
「え、やだ……っ!」
「ん?」
「なんで嫌なの?」そう聞き返されているようで、顔が熱い。
目も唇も鼻腔も。
頭の中も、血管が沸いてしまうような。
恥ずかしい。
悔しい。
……悲しい。
いつもならたったそれだけのことに、イライラしたり癇に触ったりしないはず。
納得出来ない。
何故そんな言い方をするのだろう。
理不尽さに眉根を更に寄せる私を、まだ追い詰める彼が本当に癪に障る。
もう三本目の発泡酒の酔いに任せて、黙っていられずに思わず黒く固まった言葉をぽつりぽつりと投げつけた。
「ふざけんな……」
「うん」
1つ不満を吐き出してしまったら、意地で保って押し込んでいた何かが、私の中で急激に崩れ落ちた。
「ずっと我慢して、負担にならないようにしてたのに」
「うん」
「なんで、意地悪っ……」
何から話していいのかわからず、もう考えつく限りの単語を声に乗せる。
自分でも呆れてしまうほど情けないのに。
伝えたかったことはたくさんあるのに。
けれどずっと簡素な連絡が続いていたから、せっかく久しぶりに電話が出来た今は、茶化して欲しくはなかった。
それでも私が子供みたいに発する言葉を、
彼は静かに相槌だけを打って促してくれる。
「私……電話したかったの」
「俺も」
「でも、仕事だから、わがまま言っちゃいけないと……思ってっ」
柔らかい声が私の散らかった心をかき集め、あやすみたいに優しくて。
耳に自然に溶け込む。
泣き声を抑えようと上擦る私の言葉を、気持ちごと抱きしめてくれるような心地いい声。
欲しい言葉を届けてくれる。
「ん、助かった……我慢させてごめん」
ああ。
もう、いいや。
意地を張ることすら馬鹿馬鹿しい。
「寂しかった、早く会いたい」
「俺も」
……
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