3人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
二杯目のお茶を半分ほど飲み、先輩の観察を無理矢理終わらせた僕の聴覚が、かすかな物音を聞き取った。
「なにか、音がしたわね」
顔をあげた先輩と暗闇に馴れた視界で目があった。先輩にも聞こえたようだ。
「この辺ではないですね、奥ですか」
「そうね」
湿気った音を立てて読んでいた本を閉じた先輩は、本をテーブルに置くと立ち上がった。
「見に行きましょう」
スカートの裾をひらりと揺らし、僕を誘う。しかし、椅子から立ち上がるそぶりを見せない僕に気付くと、先輩は首をかしげた。
「どうしたの、こわい?」
「こ、子ども扱いしないでください。怖いんじゃありませんっ」
はらはらと落ちる髪の毛が、暗闇に溶ける。首をかしげて不思議そうに見つめる瞳に囚われないように、僕は顔を背けた。なのに。
「しかたないわね」
先輩の吐息のような囁きが耳に触れた瞬間。僕の右手が握られていた。
「なんの真似ですか」
「手を繋いで行こうかと思って」
するり、からめられる指に僕の神経が過剰に反応する。
「だから子ども扱い……」
「私がこわいのよ。ね?」
嘘だ、わかってる。なのに、振りほどけない。
最初のコメントを投稿しよう!