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ああ……さすがに頑丈な俺でも、ショットガンで武装した強盗には無理だったか。
意識がなくなる前に俺は、走馬灯のように自分の過去を振り返る。
ある朝、目覚めたら俺、冬月弘樹はATMになっていた。
東京郊外の公営団地4階に住む、俺達冬月家は貧乏だったがそれなりに楽しくやっていた…と思う。
自信がないのは、俺がATMになってしまったからかもしれない。
全国のゆうちょ銀行に設置されているだろう、外見が灰色のプラスチックと磨かれた金属で換装されたあれだ。
正確には、内部のシステム部位が互換性のない新しいバージョンが俺なので見た目が似てるだけなんだが。
だって、ATMになって、俺達家族は裕福になれたからな。貧しかった頃なんて覚えてない。
俺は自他共に認めるドジだ。
ほとんど配送業者と化した零細商社、いや商店か、まあ現代ではかなり少数に位置する職場で妻と1人娘の為に汗水たらして、ネジとかの小さな部品を点在する町工場に納入し働いてたんだ。
零細で、親子が経営している所。どういう所かと聞いたら、帰りは早くて夜10時、午前様が当たり前だ。
なんで、そんな遅くなるって?
親族のご機嫌を取る為の、無用な会議を終業後にするからだよ。
おまけに薄給でいつも妻と娘に申し訳なくて、惨めだったんだ。
俺にそっくりな大学の友人は、反対に順調でな、俺とはどうしてこんなに違うんだよって恨めしい思いにもなってたなあ。雄二、羨ましいわ。
「パパ、ゆっくり休もう。もうヘトヘトなパパ見たくない」
「優菜も。小学校の入学式にも来てくれなかったけど、パパ大変なのママから聞いてたから」
本当にいい妻と娘を持った。
だから、ATMになって、俺は神様に感謝した。
ATMになれば、趣味も食事も睡眠もいらない金を使わない人種になれるし、高級取りになれる。好物のコーヒーが飲めなくなったのは残念だったけど。
仕事内容はATMコーナーで待機して、滞りなく取引を遂行するだけ。
収入も増え、夢の戸建てもローンでなんとか買えた。
でも、その頃からかな。娘達が変わったのは。
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