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雪子が呆れる。
「えっ、じゃないでしょ。一緒に暮らしていくのがそんなに嫌なの?もう時たま、優菜や私にこそこそ外で会わなくても良くなるのよ」
「あまりに突飛だったから。それに、出来ないだろう現実的に」
くすっと微笑む。
「出来るようになったの。これからおいおい話していくね。不束者ですが、これからよろしくお願いします」
いつの間にか、優菜の姿が消え室内は雪子と俺の2人になる。
奇跡。
生来の機械オンチで、工具にもネジすら殆ど触った事のない俺が何の因果かATMになってしまった。
一時は死にかけ、助かり類稀なる僥倖。恐ろしさすら感じてしまう。命ならず、家族や家の資産が手に入ってしまうなんて。
これは雪子や優菜を幸せにしろって、神様が采配を振るった結果なんだ。
「ああ、君達2人を幸せにしてみせる」
「私と優菜も、雄二さんと一緒に、手を取り合っていきます」
開け放した病室の窓から、新緑の風が吹き込む。俺、春崎雄二の新しい生活が始まりを迎えた。
同時刻 病院自販機の前
自販機に睨めっこしている優菜がポツリと呟く。
「これと同じでATMって、全国にたくさんあるんだよね。……
また、奇跡が起こったら今度は……いくら引き出しがあるのかな」
(了)
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