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「あっ」
自宅前で停められたバイクから降りて、脱いだヘルメットを彼に返そうとしたときだった。
右の耳たぶに微かな違和感を覚えて、人差し指で触れた。
「ピアスが……」
「どうした? 落としたか?」
慣れた仕草で私の髪をかきあげる、長い指。
「こんな小さいの、見つからねえよ。どうせ似合ってなかったし、俺が新しいの買ってやるよ」
ピアスに飾られた左耳と何も付いていない右耳を交互に確認しながら、彼は面倒くさそうにそう言う。
「これ、お母さんに貰ったんだ」
その一言で、彼の顔が途端とこわばった。
「あ……ごめんね」
そんな表情をさせたかったわけじゃなかったのに。
私だって言っちゃったもの、あのとき。
貰った本人に向かって。
思いっきり。
吐き捨てるように。
「いや、こっちこそ悪りぃ」
くしゃ、と私のミディアムボブを乱して、そこに脱いだばかりのヘルメットを被せる。
「探しに行くぞ」
再びバイクにまたがって、乗れというように後ろへ親指を立てる。
そのぶっきらぼうで温かい背中にぎゅっとしがみついた。
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