僕の帰る場所

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しかしそういうセルゲイに、政府は、 「あなたがそういうお考えならば、話は早い」 と椅子を乗り出してくる。 「あなたを返還することは、我が国にとっても国際協定に背くことになる。あなたの知識をあの国に返すことで起こり得る、未来の悲劇には、脅威を抱く国も少なくないのでね。しかし我が国の大切な国民を、このままにしておくわけにもいかない」 それは人質が持っているバックボーンの差異だろう、とセルゲイは声に出さない心の中で思う。 人質になったのが本当にただの一般人なら、日本政府はいたずらに時間を稼ぐだけで、結局は何もしない。 事実上の放置だ。 どこの国にも、力のある人間とそうでない人間の間には、明確な差別がある。 だけど今回の人質には、日本政府が重い腰をあげなくてはならない、何らかの事情があるのだろう。 日本国の事情などセルゲイには知ったこっちゃないが、持ちかけられた司法取引には興味を引かれた。 日本政府は、結果的にセルゲイを釈放するつもりはなく、これは見せかけの人質交換であること。 その後セルゲイに与えられるのは、ここ日本国での収監中の待遇改善と刑期の軽減。 かつてどこかで見たことがあるような策戦だが、日本国のブレインが代わり映えしないだけの話だと考えれば納得もいく。 セルゲイは、その条件を飲んだ。
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