僕の帰る場所

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しかし机上で語る策戦と、現実の緊張感は違う。 いざ現場に立ってみれば、緊張のあまり、セルゲイの背中には冷たい汗が伝う。 セルゲイが不安な瞳を、傍らに立つ有坂龍一に向ければ、龍一は、 「大丈夫だ」 とでも言うように、セルゲイに穏やかな笑みを返してくる。 日本政府は、この男をセルゲイに引き合わせるとき、 「有坂の側にいれば、キミの身の安全は確実に保証する」 確約してくれた。 曖昧な言い回しを好む日本国にそう断定させるぐらいには、龍一の実力は本物なのだろう。 いま龍一がセルゲイに向けてくれる笑みも、その確約を信じるに値する自信に溢れた微笑みだが、 ――この男とは、以前にどこかで会っているような気がする―― 記憶力には自信があるセルゲイだが、何故かどうしても、 ……思い出せない。 もどかしい記憶にセルゲイは落ち着かない気分のまま、龍一に促されて、人質交換のためにゆっくりと足を進める。
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