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僕の帰る場所
「セルゲイ・ラバス?」
向こう側から素性を問われるように語尾をあげて名前を問われて、有坂龍一の隣に立っていたセルゲイは、
「そうだ」
と大きく片腕をあげてみせた。
声を出して返事をしても良いのだが、問いかけてきた相手がいる位置は、ここからはずいぶん遠い。
鍛えられている兵士だからこそ届く声であって、しがない科学者のセルゲイでは、どれだけ声を張ろうと聞こえやしないだろう。
セルゲイ・ラバスは、日本で、爆弾を作った罪で収監されていた。
今は解散してしまったが、『神の門』という名のテロリストグループのメンバーのひとりだった。
事実セルゲイの作った爆弾は、日本政府を脅す手段として利用され、高校の校舎をひとつ爆破している。
しかし今回、セルゲイの祖国で拘束された日本人ジャーナリストの解放の条件として、相手国から人質交換の対象として名前をあげられたのが、セルゲイ・ラバス。
セルゲイが持っている『爆弾を作る知識』が、紛争の絶えないセルゲイの母国に必要とされたのだろう。
本来なら日本政府がそんな要求を飲むわけはないが、今回、拘束された日本人ジャーナリストは、有名な財界の御曹司だった。
というわけで、政府も放置しておけず、コトは極秘裏にすすめられ、ジャーナリストとセルゲイの人質交換が、かの国の国境付近で行われることになった。
セルゲイは、交渉人として同行する有坂龍一と共に、数年ぶりに祖国の土を踏む。
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