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「……もう一度お父さんに会えたりしませんかね」
男の子が非常に複雑な表情をする。
「すいません。分かってますよ。皆が皆幽霊になるわけじゃないですからね」
幽霊は本人がなりたいと思ってなることもあれば気が付けばなっていることもある。
様々な条件がそろって初めて幽霊として現世に姿を現すことができるのだ。
「でも、やっぱりお父さんが死んだなんて今でも実感できないんですよねぇ」
今でも実家の玄関を開けると「おかえりなさい」と言って出迎えてくれる気がする。
「それは甘えってものですかね」
「御屋形様」
「大丈夫ですよ」
気を使わせてしまったかなと申し訳なくなる。
「さて。随分お待たせしてしまいましたね」
私は男の子に向き直って言った。
「私に何か頼みごとがあるんでしょう?」
きっとこの幽霊は私に何か相談事があって私のところに来ていたのだろう。
ただ、私の状況を見て気を使っていてくれたのだと思う。
「……すいません」
「気にすることはありませんよ。私が好きでやっていることですから」
そういうと幽霊の男の子はほっとした顔をする。
さて。私は私のできることをしましょうか。
お父さんがもういないことは実感できませんが、それはそれとして日常はやってくるのだから。
ふと、お父さんを思い出したときにまたどんな気持ちになるかは想像ができないけれど。
「では、ちょっと向こうで話しましょうか」
私が歩き出すと幽霊の男の子は私の後ろをついてくる。
青空を見上げながら歩き始める。自分の足が地面を踏みしめていることを感じながら。
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