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「悲しくないんですか?」
子供の幽霊がおずおずと聞いてくる。
「悲しいはずなんですけどね」
自分でも不思議な気分だった。お父さんのことは好きだった。大好きだったといってもいい。
でも、悲しくはない。というよりも悲しめなかった。ずんと重い気分にはずっと胸の内にある。それだけだった。
「お母さんのあんな姿を見たら泣けませんよね。本当に悲しいのは、泣きたいのはお母さんだと思いますから。そのお母さんを差し置いて悲しいなんて言えませんよ」
子供の幽霊は複雑な表情をして、何かを言おうとしたが言葉を飲み込んだようだった。
「元気出してください」
「私は結構元気ですよ」
そう答えたところで高柳さんに呼ばれたので私は部屋に戻った。
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