第1章

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そこからは不思議な気分のまま時間が過ぎていった。 身内が亡くなったのは初めてだったので、初めての体験ばかりだった。 通夜の日の昼にはお父さんの体を綺麗にするというのでお父さんの体を親族数人で順番に洗った。 体は昨日触ったときよりも固く冷たくなっていた。 胸の底から何かがこみ上げてくる。嗚咽しそうになるのを奥歯で噛みしめて飲み込んだ。 お父さんを棺桶に入れると、よくお葬式でみる形に収まった。 葬儀場に棺桶を運び入れるころには会場はすでに出来上がっていた。 たくさんの花や果物が飾られている。正面には大きな祭壇ができていた。 無数に並べられた椅子のひとつに座ってぼーっと祭壇を眺める。現実感がなかった。 祭壇の真ん中には不愛想な顔なお父さんの写真があった。 私が選んだ遺影だ。写真が嫌いだったお父さんはほとんど写真が残っておらず大変だった。 遺影の写真も私が一度だけお願いして取らせてもらったものだ。もう三年ぐらい前の写真なので実物より若干若い。
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