第1章

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ただ、来てくれる人たちが皆お父さんのことを本当に悔やんでいてくれることがうれしかった。 通夜が始まりそうになると受付を代わってもらい葬儀場の中に入る。お葬式が始まってお坊さんが入ってくるのをなんとなく眺めていた。 お母さんは私の隣で神妙な顔をして祭壇を見つめている。私も祭壇の前に座るお坊さんと遺影を眺める。 どうにも実感がわかなかった。本当にお父さんは死んだんだろうか? 分かってはいる。もうお父さんには会えないことは理解はしているけれど納得はしていないとでもいうのだろうか。 ぼーっと遺影を眺めているといつの間にか通夜が終わっていた。 私たちはまた控室に戻り明日は葬儀の本番に備えることになった。 控室で一晩を過ごして、翌朝葬儀が始まった。 内容的には昨日の通夜と大きくは違わなかった。 違いといえば棺を火葬場に持っていくことだった。棺の蓋を閉める前に関係者が棺の前に集まって最後のお別れをする。 棺の中に花やお父さんが好きだったものを棺の中に入れていく。 私はお父さんが好きだった文庫本を一冊入れてあげた。 「最後のお別れとなります」 葬儀社の人の言葉を胸の中で繰り返す。これでお父さんの顔を見れるのは最後だと自分に言い聞かせる。 そう思えば涙が流れてくるかと思ったけれど、やっぱり涙はでなかった。
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