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お母さんが落ち着くのを待って、隣の部屋に寝かされているお父さんの前に座る。
私の知っているお父さんよりは少しやつれているように見える。でもそれ以外は普通だった。
寝てるみたいだろ? そんなフレーズが頭に浮かんだ。まさにそんな感じだなと思った。
そっと手を伸ばして頭に触れる。猫っ毛だったお父さんの髪の毛は少しぱさぱさとしていて触れた皮膚からはまるで体温を感じなかった。
冷たい。それがお父さんを触った感想だった。
どうして死んでしまったんですか?
心の中で質問をしてみても返事は帰ってこない。
両手を合わせてみる。安らかに眠ってくださいね。
心の中でつぶやく。
お父さんの前から立ち上がってお母さんの隣に座る。
お母さんの綺麗な顔が崩れていた。顔色は悪く疲労が見て取れた。
『葬儀の事は高柳さんにお願いしてあるから。喪主は私が』
文字はまだ震えていたが言葉には力が戻っていた。お母さんなりに私に気を使ってくれているのかもしれない。
「わかった」
それだけ答えて立ち上がる。部屋から出ると高柳さんが近づいてきた。
「この度は……ご愁傷さまです」
私はあまたを下げて答える。高柳さんは私たち家族とは関わりが深い人でよくしてもらっていた。
「すいません。いつもお世話になって」
「いえ。私も少しでも力になりたんですよ。有馬さんのためにも」
真顔でいう高柳さんに私はお願いしますと頭を深く下げた。
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