ダイエット神は誘惑する

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 こうなったら、もう神頼みしかなかった。 「神様、お願いです。わたしのダイエットが成功するようにしてください」  神社仏閣に行きまくり、祈りに祈り倒して祈願した。  その甲斐あってか、ある日それは突然に訪れた。 「おぬしの願いは聞き届けられた」  わたしの家に神様がやって来た。 「わしはダイエットの神であるぞ」  神様が言った。 「ダイエットの神様って……」  わたしは呆気にとられた。  頭巾をかぶったふくよかな顔に、大きな袋を提げて小槌を持った、これはいわゆる── 「大黒様ですよね?」 「いかにも七福神の大黒天じゃよ」  大黒様が口髭を撫でながら答えた。 「えっ、大黒様なのにダイエットの神様なのですか!?」 「今でこそ七福神の一柱じゃが、その昔は台所の神様として祀られていたのじゃよ」 「台所の神様なのに、なぜダイエットなのですか?」  わたしは訊かずにはいられなかった。まさに神にもすがる思いだ。 「それはおいおい理解するじゃろうて」  大黒様が眼の線を弧にして言った。 「それよりもじゃ。その手に持っているモノはなんじゃ?」 「こ、これはっ……」  指摘されて口ごもる。手につまんでいたのは板チョコだったからだ。 「チョコレートは脂肪を燃焼させるお菓子なので……」 「だからダメなのじゃよ。ダイエットには強い心が肝心なのじゃ!」  そう言われてグウの音もでなかった。食欲は人一倍強いが、精神力は人二倍弱かった。 「ダイエットを成功させるには、まずおぬしの弱い心を鍛えるのが先決じゃぞ」  “じゃぞ”ってなにをするのだろうか? 「とりあえず、もう昼飯時じゃな」  部屋に上がりこんだ大黒様が、嘆息まじりにつぶやいた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加