試乗車

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試乗車

 最近、どうにも車の調子が悪い。  もう二十年近く乗っている愛車だが、前回の車検もギリギリだった。下手に無理して故障し、それが元で事故を起こすよりはと、新しい車を買うことにした。  とはいえ、同じ車二十数年も乗っていたため、いきなり他の車を購入、はい今から愛車ですとは乗りこなせない。  ショールームや中古車屋を何件も巡り、気になる車は試乗させてもらうということ繰り返した。  そんな中、かなりドンピシャの車と巡り合った。  形は申し分ない。色も塗り替えなしで好み。値段も充分予算内。  これはいい。となると、後は乗り心地だな。  店の人に申し出ると、快く試乗を受け入れてくれた。  何回か試乗していた慣れつつあるけれど、古い車と違って最近のは、まず鍵穴がない。シフトレバーやサイドブレーキの位置も違う。  この車も最近タイプのものだ。でも、このタイプに何回か乗ったたせいか、もう違和感はなかった。いや、それ以前に妙に何もかもが馴染んだ。  ハンドルの切り心地、加速や減速の具合、運転席の座りよさまで、あつらえたように俺に向いている。  これはいいなぁ。  こいつでほぼ決まりだ。  近くを一周する間に購入を決意し、俺は、店に戻るなり店主にそのことを切り出し…の前に。 「そういえば、後部座席の人って誰なんですか? てっきり試乗の際の案内役かと思ってたんですけど、車の説明もしなければ道案内もしないし…。こう言ったらアレですけど、乱暴な運転をしないかどうかを見張る人、とかですか?」  そう話すなり、店主が真っ青な顔になった。
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