未来から来た恋人と息子

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『俺のせいですね』 『未来の息子からすべて聞きました』 『そうですか…』 『あなたに克巳をあげます、だからこの子は私にください』 『本当に克巳と離婚を…』 『はい』 美佳は左手の薬指にはめている指輪をはずし明夫に差し出した。 明夫は指輪を受け取り美佳を見つめた。 『私には必要ないからあげます』 『……』 『夫婦の証だから』 『……』 明夫は指輪をポケットの中に入れた。 その時、飲み物を持って蛍が戻ってきた。 『母さん、はい』 蛍は財布とお茶のペットボトルを差し出した。 『ありがとう』 美佳は財布とお茶のペットボトルを受け取った。 『明夫さんは珈琲でいいですよね』 『ありがとう』 明夫は蛍から珈琲缶を受け取った。 蛍は椅子に座りジュースの缶を開けると飲んだ。 『2人とも飲まないのか』 『蛍君、用事を思い出したから先に帰るね』 『じゃあ俺も』 『蛍君はもう少しいなさい』 『……』 『それじゃあ帰ります』 『お見舞いに来てくださってありがとうございます』 『お大事に』 美佳に頭を下げると明夫は病室を出ていった。 『急にどうしたんだろ』 『蛍君』 『何?』 蛍は美佳に目を向けた。 『私と克巳、離婚するの』 『え!』 『これからの克巳を支えるのは明夫さん、だから私の指輪を明夫さんに渡したの』 『父さんと母さんが離婚…』 『未来の私は病気で死んだけど、今の私は病気で死なないから心配しないで』 『未来とは違うもんね』 『そう、未来の私と今の私は生き方が違う』 『……』 蛍は目から涙を流した。 美佳は手で蛍の涙を拭うと抱き締めた。 その頃、明夫は歩きながらホストクラブの店に向かっていた。 ーホストクラブの店ー 楽しそうな顔をしていない克巳を見て女性客が寄り添いながら口を開いた。 『何か悩みごとでもあるの?』 『別にありませんよ』 『そうかしら、だって…』 『……』 『お客様、克巳の代わりに俺がお相手します』 『雅さんが、嬉しいわ』 『克巳、晃のところに行け』 『はい…』 ソファーから立ち上がり女性の側を克巳が離れると雅がソファーに座った。 『……』 克巳は晃の側に歩み寄った。 『晃さん…』 『仕事にならないほど悩んでいるなら帰りなさい』 『…すみません…』 『今日だけだよ』 晃が微笑むと克巳は頭を下げ店を出ていった。
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