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『克巳』
『明夫』
振り向いた克巳は近づいてくる明夫に駆け寄った。
『まだ仕事中のはずだろ、どうしたんだ』
『仕事に集中してないから帰れって』
『……』
『美佳、何て?』
『……』
明夫はポケットの中から指輪を取りだし克巳に見せた。
『この指輪は…』
『美佳さんから貰った、自分はもう必要ないからって』
『それって』
『美佳さんがこれからの克巳を支えるのは俺だって』
『美佳がそんなことを…』
克巳の目から涙が流れた。
明夫は克巳を抱き締めながら『夫婦になってくれるだろ』と言った。
克巳は『あぁ、お前と夫婦になる』と泣きながら答えた。
『俺の指に指輪をはめてくれ』
明夫は指輪を克巳に差し出した。
克巳は指輪を受け取り明夫の左手の薬指に指輪をはめると克巳は明夫を見つめ『愛してる』と言って口づけを交わした。
『店の前で何をやってるんだ』
誓いを交わす克巳と明夫に言うと晃は店の中に入った。
『帰ろうか』
『うん』
晃に見られ恥ずかしくなった克巳と明夫はホストクラブの店を離れ廃墟ビルに向かった。
その頃、雅は楽しく女性客の相手をしながら酒を飲んでいた。
『雅さんさぁ、克巳のこと好きだったでしょ』
『え…』
『図星だ』
『江梨子さん悪酔いしてますよ』
『酔ってなんかないわよ、私、占いをやってるから』
江梨子はワインを飲み始めた。
『占い…』
『占ってあげる』
江梨子はグラスをテーブルの上に置き雅の手を掴んだ。
『……』
雅はドキドキしながら江梨子を見つめた。
『今は恋人と仲良くやってるみたいね』
『…恋人って誰のことを言ってるんだ…』
『晃さん…でしょ?』
『……』
グラスを倒し動揺する雅の姿に江梨子は笑った。
その時、晃が通りがかりテーブルに目を向けた。
『ワインが溢れてるじゃないか』
晃はおしぼりでワインを拭いた。
『あ…すみません…』
『雅さん、お会計をお願い』
『…はい…』
雅と江梨子はソファーから立ち上がりレジに向かった。
『3500円になります』
雅が言うと江梨子は財布から3500円を出し雅に差し出した。
雅はお金を受け取り『ありがとうございました』と言って出ていく江梨子を見送った。
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