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自宅の最寄駅から、快特に乗れば横浜までおよそ15分。
こんなに近いのに、横浜へ行く機会は最近ほとんどなかった。
今日は、昔付き合っていた二宮浩樹と出かける事になっていて、私は待ち合わせ場所に向かっていた。「次は京急川崎に止まります」
車内にアナウンスが流れ、それと同時に私は車窓の外に目をやる。
眼下に東京と神奈川の間を流れる多摩川が見える。六郷橋を越えると、すぐに川崎だ。
間もなく川崎に着くという頃、スマホのバイブの振動に気づいてバッグの中から取り出すと、画面には二宮からのメッセージが表示されていた。
『ごめん、30分位遅れます』
『了解です』
これをデートと位置づけて良いものなのかな。
二宮と出かける時はいつもそう考える。
これまで何度となく二人だけで会ってきた。
今までは友達として、という大義名分があるから気軽に会う事も出掛ける事もできたけど。
今日は、前から見たかった芸術家の美術展に行く事になっている。
私はたまたま雑誌で見かけたイラストをとても気に入り、インターネットで調べてみると偶然、横浜で展覧会が横浜で開催される事を知った。
その事を二宮に何の気なしに話すと、実は二宮も好きだという事が分かり、一緒に出かける事になった。
私たちは数年前、半年足らずだけど付き合っていた。
世間で、別れた二人がその後も友達として付き合いがあるという人はたくさんいるのかもしれないけど、私は相手の事が好きなので、純粋な友達とは少し違う。
別れたにも関わらず、今もこうして会える関係なのは二宮の人柄が大きいと私は思う。
普通、気まずくて二度と会いたくないと思うから。
別れた原因は、私のわがままだった。
もともと同期入社で仲が良く、仲間内でプライベートの旅行に出かけたりするうち、私と二宮はいつしか二人で会うようになった。
私は二宮を同期の気の合う仲間、として最初は見ていたから何でも言い合えたし、それはすごく良好な関係だと思っていた。そんな中、ある日私と二宮が二人で会社帰りに飲みに行ったとき、いつも冗談ばかり言っている二宮が珍しく真剣な表情で私に言った。
「俺、片桐の事好きなんだ。付き合ってほしい」
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